勃起はペニスの海綿体に血液が集中して流れ込むことで起こりますが、ペニスの動脈は直径約1~2ミリメートルと、他の臓器の動脈に比べて非常に細いため、動脈硬化などで血流が悪くなると勃起することができません。ちなみに、心臓を取り巻く冠動脈はペニスの動脈よりやや太く、直径約2~3ミリメートルですから、ペニスの血管が詰まれば次は冠動脈が詰まる、すなわち心筋梗塞を発症する確率が高まるということがわかっています。ですから、性生活だけではなく心筋梗塞予防のためにも、勃起しにくくなったと感じたら、早めの受診をおすすめします。
また、勃起には様々な神経のはたらきが関わってくるため、糖尿病や脳梗塞、脊髄損傷、前立腺がん手術などで神経に問題が生じると、勃起できなくなります。他にも、男性ホルモン分泌量の低下や歯周炎によって勃起障害が起こる可能性も指摘されています。
こういった身体の問題とは別に、なんらかのメンタルの問題によって、勃起障害になることもあります。たとえば、子どもを望む夫婦が、妊娠しやすくなる排卵日を推定してセックスしようとすることを「タイミング法」といいますが、このとき、過剰なストレスとプレッシャーを感じた男性が勃起できなくなるのが「タイミング法ED」です。
勃起障害に対する治療には、薬がかなり効果的です。特に心因性の勃起障害に関しては、8割以上が薬で改善できます。薬については、次のQ&Aを参照してください。
ただし、糖尿病など他の持病や、身体の損傷に起因する勃起障害では薬はあまり効かず、原因となっている病気などを治療していくことが必要になります。
Q3. ネットでEDに効くという薬が激安で販売されていましたが、処方箋なしで買っても大丈夫でしょうか?
勃起障害の治療薬の代表的なものには、「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」(いずれも商品名)の3種類があります。これらはいずれも、ペニスの海綿体に集中した血液が逃げないようにブロックする「PDE5阻害薬」というものです。組成は似ていますが、どれも同じというわけではなく、たとえばシアリスは、36時間効果が持続し、途中で食事をしても効果に影響が出にくいという、他のふたつにはない特徴があります。薬との相性には個人差が見られますので、医師と相談しながら服用しましょう。
一般の薬と違い、これらの薬には薬価がなく、薬の種類にもよりますが1回の処方で1500円前後から2000円台となることが多いようです。病院や薬局によって値段が変わってきますので、受診するときには確認してみてください。なお、バイアグラに関してはジェネリック薬も販売されています。
ただし、ネットで販売されている勃起治療薬の5~9割近くが偽物だったという調査結果があり、中には危険な成分が含まれているものも報告されています。安いからとネットで購入するのは非常に危険です。
Q4. 挿入するとすぐに射精してしまうので、パートナーを満足させていないのではないかと心配です。早漏は、治療したほうがいいでしょうか?
早漏とは、性交の際に腟にペニスを挿入してからすぐに射精してしまう状態です。一般的には「パートナーが満足できない間に射精してしまう」という定義になりますが、挿入後、「1分以内」「ピストン運動10回以内」に射精してしまう、などと定義されることもあります。海外では早漏について多くの研究があり、神経伝達物質のひとつであるセロトニンが関係していると考えられています。
海外で研究が盛んなのは、それだけ早漏で受診する患者が多いということを意味しますが、興味深いことに、日本では早漏の治療を希望する人が少なく、私がこれまで診察した早漏の患者も多くは外国人でした。
ただし、「国内成人男性の約3.5人に1人が早漏」(TENGAヘルスケア調べ 2017年)というネット調査もありますので、おそらく「自分は早漏だ」と悩んではいても診察を受けない男性が大半ではないかと推測されます。その理由についても推測するほかはないのですが、「早漏は病院に行くようなことではない」と思われているのかもしれません。
実際のところ、パートナーとの関係性が悪くないのなら、早漏を治療する必要は特にないともいえます。勃起障害と違って、危険な病気の前兆ではありませんし、精子が出ていれば妊娠にも支障はありません。
治療を希望するのであれば、セロトニンの働きを増強する「SSRI」という抗うつ薬が効果的とされています。薬以外では、射精しそうになったときに我慢することを何度も繰り返す行動療法があり、徐々に刺激を強くして早漏を治すトレーニングのための器具も販売されています。
Q5. マスターベーションでは射精できるのに、セックスで射精できません。パートナーとの関係が悪くなってしまい、どうすればいいのか悩んでいます。
これは、腟内射精障害、または重度遅漏ともいわれる現象で、近年、日本で特異的に増加しています。腟内で射精できないと自然妊娠が難しくなるため、男性不妊の大きな原因になっています。また、「射精できないのは、自分に問題があるのでは」とパートナーが傷ついてしまい、ふたりの関係に深刻なダメージを与えることも少なくありません。
腟内射精障害の主な原因となっているのは、不適切なマスターベーションです。床や壁にペニスを押しつける、いわゆる「床(ゆか)オナ」や、ペニスを強すぎる力で握るマスターベーションが習慣化すると、それより弱い腟内の刺激では射精できなくなってしまうことがあります。また、脚をまっすぐ伸ばし、力を入れて行う「脚(あし)ピン」というマスターベーションが癖になっている人は、そうした特定の体位以外での射精が困難になりがちです。ですから、このようなマスターベーションが習慣にならないよう、正しいマスターベーションを行うことが非常に重要で、既に習慣化してしまっている場合はリハビリが必要になります。
他には、心理的な問題やAV等のバーチャルな情報で満足してしまうなど、様々な原因が考えられ、これらのケースではカウンセリングが必須です。腟内射精障害は治療に時間がかかることも多いので、不妊治療中で子どもを授かることを目標としているカップルならば、腟内射精障害の治療と並行して、人工授精などを試みることも、ひとつの対処法といえるでしょう。
Q6. 射精した感覚はあるのに、精液がほとんど出てきません。精子が少ないのではないかと心配です。
精液の量と、そこに含まれる精子の数にはあまり相関関係がありません。また、精液の量は、体調などによって日々異なります。ただし、「以前に比べて精液が減ってきた」という場合は加齢が影響していることが多く、実際に、35歳をすぎると精液量と精子の運動率が低下していくことがわかっています。