20年6月には、男性の同意が得られずに中絶可能な期間を過ぎ、20歳の未婚女性が公園で出産し、赤ちゃんの遺体を遺棄する事件も起きています。また、性暴力による妊娠の場合に医師から加害者の同意を求められ、中絶ができないケースが全国で相次いでいることを問題視した弁護士団体が、20年6月に日本医師会に対して、法律上、加害者の同意が不要であることを周知徹底するようにと要望しました。産婦人科の現場では、未婚女性や性暴力被害者など、法的には同意が不要なケースにおいても相手男性の同意を求めるということがしばしば行われています。中絶した後になって、男性側から訴訟されるリスクを避けるためという医師の意見があるようです。現在は削除されていますが、20年6月の時点では日本産婦人科医会のサイトに「配偶者の有無に関わらず、人工妊娠中絶を行う患者さんの当事者である性的パートナーから原則同意を取得しておく方がトラブル回避となる傾向は、今も昔も変わりません」という提言が公開されていました。
既婚であってもDV(家庭内暴力)による妊娠というケースも考えられます。配偶者同意の条件については、女性のからだの自己決定の観点から、見直し、議論する必要があると思います。
なお、厚生労働省は20年10月に、性暴力の中絶において加害者の同意は不要であることを通達し、21年4月に、配偶者であってもDV被害の場合は、同意が不要であることを通知しています。
産婦人科医は中絶する女性にもっと寄り添って
日本において中絶は母体保護法指定医でなければ行うことができません。日本産婦人科医会が発行する「指定医師必携」という冊子には、「人工妊娠中絶は患者の求めに応じて行うものではなく、人工妊娠中絶の適応があると指定医師が判定した場合のみ行うべきもので、この点が他の医療との大きな差異である。」と書かれています。つまり、中絶に関しては女性のからだの自己決定ではなく、医師の決定で行われるものとされているのです。
性と生殖に関する健康と権利(SRHR)において、女性には、子どもを産むかどうか、産むなら、いつ何人産むかを決定する自由があります。そして、安全な中絶へのアクセスは女性の権利である、ということはWHOのウェブサイトの「中絶」の項にもうたわれています。またFIGO(国際産婦人科連合)は21年3月、「人工妊娠中絶は一刻を争う重要な医療サービスであり、女性や女子の希望に沿って、安全性、プライバシー、尊厳を最優先にして提供されるべきものである」という声明を発表しました。
中絶を選択する女性一人一人には、様々な背景や理由があります。その女性の表面的な態度を見て「安易に中絶している」と他人がジャッジすることはできません。医療者の役割は、世界標準の適切な医療を必要とするすべての人に安全に平等に提供することです。中絶後のケアでは、医療者に当事者を批判しない、避難しない姿勢が求められます。中絶の問題は、方法、費用、法律、社会的罪悪視など多岐に渡っていますが、性と生殖に関する健康と権利を尊重することが不可欠です。
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