中絶(人工妊娠中絶)とは、胎児が母体の外では生命を維持できない時期に、人工的に妊娠を中断することである。妊娠を継続できない理由や背景は多岐に渡るため、妊娠に直面し、中絶を選択する可能性は誰にでも生じるかもしれない。中絶はどのように行われ、女性の心身にどのような影響を与えるのかは、女性だけでなく男性も知っておくべきことのはずだ。中絶の基本的知識と共に「日本の中絶」が抱える問題について、安全な中絶と流産についての情報を伝えるサイト「Safe Abortion Japan Project」(https://safeabortion.jp/)を運営する産婦人科医の遠見才希子医師にうかがった。
日本の中絶方法は時代遅れ?
2020年(1月〜12月)の日本の中絶数は約14万5340件、1日あたり約400件が報告され、10代女性の年間中絶件数は約1万1000件に上ります。なお、1950年代に年間約100万件のピークを迎えて以降、中絶件数は減り続けています。
海外には中絶が違法とされている国もありますが、日本は他国に先駆けて1948年に「優生保護法」(1996年に改正され、現在の名称は「母体保護法」)を定め、一定条件下の中絶を合法化しました。しかし、中絶方法は世界のスタンダードとはいえない現状があります。
日本の中絶方法は、基本的に妊娠12週未満(初期中絶)と以後(中期中絶)で異なります。初期中絶は手術、中期中絶は主に腟錠で分娩を誘発する方法が行われ、日本では初期中絶において、「掻爬(そうは)法」「電動吸引法」「手動真空吸引法」の3つの方法で手術が行われています。2012年に行われた調査によると、掻爬法単独が3割、掻爬法と吸引法の併用が5割、吸引法が2割という結果で、何らかの方法で掻爬法を採用している割合は8割にも上りました。
「掻爬法」は、金属製の鋭利な器具を子宮に挿入して妊娠組織を掻き出す手術で、全身麻酔で行います。掻爬法には、正常の子宮内膜を傷つけ、子宮腔内癒着症、子宮内膜菲薄化(正常の子宮内膜が薄くなり、受精卵が着床しづらくなる可能性がある)、また子宮穿孔(子宮の壁に穴があいてしまう)などの合併症が稀に生じるリスクがあります。これらの合併症から、将来的に不妊につながる可能性があるため、WHOの『Safe Abortion(安全な中絶)』というガイドラインにおいて、「時代遅れ」で行うべきでないと勧告されています。海外では1970年代から手動真空吸引法が主流といわれており、掻爬法の実施率はアメリカで0~4%、イギリスで0%という調査もあります。
世界標準の中絶法が日本で普及しない理由
WHOが安全な中絶方法として推奨しているのは、真空吸引法(電動または手動)、もしくは経口中絶薬です。しかし、日本では経口中絶薬は認可されておらず、電動吸引法については掻爬法を併用することが多く、手動真空吸引法については普及があまり進んでいません。