性的同意が大切なことは理解できても、「実際には聞けるかどうかわからない」「はっきり拒否できるか自信がない」「同意がなくてはあれもこれもやってはいけないのか」と、とまどう人もいるだろう。性的同意は必ず言葉で取らなければならないものなのか、相手を傷つけずに「イヤだ」と言う方法はあるのかなど、性的同意を実践していくために知っておきたいことを、艮(うしとら)香織・宇都宮大学准教授にうかがった。
【同意ってどうして必要なの?「バウンダリー」って何?「性知識イミダス:性的同意について知ろう(前編)~対等な関係性をつくるために」はこちら!】
――性的同意は必ず言葉で確認しなければならないのでしょうか? 言葉にしなくても雰囲気でわかることもあるのではないでしょうか?
本当に「言葉で確認しなくてもわかる」かどうかは非常に曖昧です。「家に泊まりに来るのはセックスOKのサイン」「恋人(あるいは夫婦)なのだからセックスするのは当たり前」「パートナーに毎回キスやセックスをしていいか聞く必要はない」「ナイトクラブのような場所に来るということは性的交渉を求めているはずだから、わざわざ同意は取らなくてよい」と自分は思っていても、相手は違うかもしれませんし、時と場合によっては「したくない」こともあるでしょう。言葉でコミュニケーションを取りながら確認しなければ、自分の思い込みで相手が望んでいない言動をして、傷つけてしまう可能性もあります。
性的同意について説明するとき、上のような例を挙げて「性的同意が取れているかどうか」をチェックするリストが使われることもあります。ただ、こうしたチェックリストを単にクリアすればよいというものではありません。互いの人権やバウンダリー(自分とそれ以外の世界を分ける境界のこと。その内側は自分の心とからだの尊厳を守ることができるパーソナルスペース)を尊重するということ、対話の大切さを十分に理解しなければ、ハウツーを覚えればそれでいい、という安易な考えに陥りがちな面もあるように思います。
――「イヤだ」と言うのは権利だということですが、それでも好きな相手と気まずくなるのは避けたいです。上手に「イヤだ」と伝える方法はありますか。
まず、お互いによい関係を続けたいという気持ちがあるのなら、「ノー」と言ったり言われたりしても、関係が終わるわけではないのだということを、知ってほしいと思います。
また、性的同意に関して、「イヤならイヤだと言っていい」という働きかけは多いですが、「相手のイヤを受け入れよう」という啓発は、まだまだ少ないと感じます。若い人たちを見ていても、ノーと言われることは自分を全否定されることだという意識があるのか、一度拒絶されるとそれきりになってしまう傾向が強いようです。けれども、どんなに大好きでも相手は違う人間で、何もかも自分と同じということはありません。つまり、自分はイエスでも相手はノーということは当然起こり得ます。
では実際にはどうすればいいのか。以前、保育士さんに研修をしたときに聞いた話が参考になると思います。園児の中に保育士さんのお尻や胸に触ってくる子がいて、その子は触ることでコミュニケーションを取って安心したいということだったらしいのですが、触られる保育士さんの方はやはりイヤなわけです。でも、単にバウンダリーを主張して「触らないで」と言うだけでは、保育士さんとコミュニケーションを取りたいというその子の気持ちの行き場がなくなってしまう。
そこで、その保育士さんはまず「触りたいんだね」「どうして触るの?」と聞いたそうです。そうしたら「柔らかいから」「気持ちいいから」と言うので、「そうなんだ、体って面白いなと思うから触るんだね」と確認した上で、「それはわかるんだけど、私はやっぱりいろんな人に触られるのはイヤだなって思ってるんだ」とはっきり言ったそうです。でも、そこで終わらせず、「触りたい」その子と「触られたくない」自分とのズレがあるということを踏まえて、「でも手をつなぐのはいいよ」「あなたが好きな遊びを一緒にするのはいいよ」「おんぶも大丈夫だよ」と、その子のことが嫌いなわけではなくて、大事に思っているんだと確認するための違う方法を一緒に考えていったと聞きました。
こういうやり取りは、保育士さんがその子をよく見て、気持ちをわかっていたからできたのだと思いますが、幼いときから「何か1つのことについてイヤだと言われても、自分のすべてを拒否されたわけではない」という経験をしていると、ある部分でズレがあっても良い関係を続けていけるのだということを自然と理解できるでしょう。
好きな相手にノーと言いたいときは、「これはイヤだけどあなたが嫌いなわけじゃなくて、こういうことならいい」「今日は疲れているから、また今度にしたい」と説明すればいいし、言われた側も「じゃあ何ならOK?」「いつならいい?」と聞いていけばいいのです。そういう率直な双方向のやり取りが、性的同意に欠かせない対等で平等な人間関係につながっていくことになると言えるでしょう。
――日本の学校では性的同意を学ぶ機会はありますか? 世界では性的同意についてどのように教えられているのでしょうか?