男性ホルモン、女性ホルモンそれぞれの役割や性ホルモンを使った治療法など、知っているようで知らない性ホルモンの基礎知識をまとめた。(監修:名古屋大学医学部産婦人科・後藤真紀医師)
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男性ホルモンの役割
男性ホルモン(アンドロゲン)には、テストステロンと副腎性アンドロゲン(ジヒドロテストステロン〈DHT〉、デヒドロエピアンドロストロン〈DHEA〉、アンドロステロン、アンドロステンジオン、エピアンドロステロンなど)があるが、一般に「男性ホルモン」と呼ばれるのは、全体の95%を占めるテストステロンである。
テストステロンは、男性の場合は主に精巣内のライディッヒ細胞で合成される。女性は主に副腎および卵巣で合成・分泌されるが、その血中濃度は男性のおよそ10%以下にすぎない。
テストステロンの主な作用は、男性の精子形成促進、思春期における男性生殖器の成熟や声変わり、骨格や筋肉の発達であり、女性と比べて骨が太く、筋肉量が多い体をつくる。また、内臓脂肪蓄積の抑制や造血作用、動脈硬化抑制の他、にきびなどの悩みにつながる皮脂分泌作用もあり、さらに頭髪やひげ、体毛を濃くしたり、性衝動と関連したり、決断力や判断力、チャレンジ精神などメンタル面での作用もある。
「男性ホルモンの作用の一部には性差が存在するという説もあります。テストステロンは男性の体内では動脈硬化や、内臓脂肪の蓄積を抑制するのに対し、女性の体内では、逆に動脈硬化を促進したり、内臓脂肪の蓄積を増長したりする作用を持つと言われており、今後の解明が待たれます」(後藤先生)
女性ホルモンの役割
女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)があり、女性の場合、ほとんどは卵巣内の莢膜(きょうまく)細胞と顆粒膜細胞で合成される。エストロゲンもプロゲステロンも、更年期以降、大幅に減少し、閉経後5年以上が経過すると検出限界以下となる。
一般に女性ホルモンと呼ばれるのはエストロゲンで、これにはいくつかの種類がある。このうち、最も活性が強いのはエストラジオールである。脳の視床下部・下垂体と連動して卵胞(卵巣で排卵まで卵子を育てる球状の組織)の発育や排卵の機能を調節し、子宮内膜の発育と脱落(月経)を起こす。また、女性の第二次性徴(乳房の発達、皮下脂肪形成など)の発現、骨密度の維持、血中コレステロールの調節、認知機能の維持、肌や髪のツヤを保つ、代謝促進、自律神経を正常に保つなど、多岐にわたってはたらく。なお、男性の体内でも精巣などから更年期の女性とほぼ同じぐらいのエストロゲンが産生されている。
プロゲステロンは、初期の妊娠を維持するために必要なホルモンであり、排卵後に黄体(卵胞から卵子が飛び出した後、卵巣に残る抜け殻のこと)から分泌され、子宮内膜を受精卵の着床や妊娠維持に適した状態にする。妊娠が成立しなければ、黄体の消滅とともにプロゲステロン値は低下し、子宮内膜がはがれて月経が起こる。プロゲステロンの変動はPMS(月経前症候群:体がむくみやすくなる、腸の動きが悪くなるなど)に関連すると言われる。