また、MI6(イギリス情報局秘密情報部)のチーフで、開戦当時はブレア元首相の補佐官及び、バグダッド特使だったジョン・サワー氏は「ブッシュ前大統領とブレア元首相は、既に01年の時点でサダム政権を『好ましくない政権』として転覆することを模索していた」と公聴会で証言しています。内外の注目を最も集めたブレア元首相の証人喚問は10年1月と11年1月に、2度、行われましたが、それに伴って公開された、02年3月17日付のブレア元首相によるジョナサン・パウエル首相補佐官(当時)への書簡には「イラクの大量破壊兵器の脅威は、明らかに増しているとは言えない」「我々は我々のシナリオを再構築する必要がある」と書かれています。
つまり、戦争の大義は後付けで、最初から戦争ありきであったこと、戦争の結果としての甚大な被害が予想・報告されながら、それが軽視されてきたことなどが、次々と明らかになったのです。
ISとは何者か?
イラク戦争とは何だったのか、あらためて考える上で、ISについて、何者なのか、どのようにして現れたのかを知ることも重要でしょう。ISは現在、シリア北部と東部、イラク北部と西部にまたがった地域を、その影響下に置いています。特に14年6月、イラク第二の都市モスルがISの支配下にされたことは、国際社会に大きな衝撃を与えました。ISは、外国人を誘拐し、身代金などの要求を突きつけ、受けいれなければ残忍な方法で殺害するということで知られています。現地でも少数民族の殺害や人身売買を行っているなど、大きな問題となっているISですが、そのルーツはイラク戦争です。ISは現在こそシリア北部ラッカに拠点を置くものの、指導者のアブ・バクル・アル=バグダディはイラク出身、その側近2人も元々はイラクの旧フセイン政権の軍人です。イギリス紙「ガーディアン」のインタビューに応じたIS幹部は「我々の存在は米軍の刑務所なしにはあり得なかった」と語っており、バグダディ自身、米軍の管理下にあったイラク南部のブーカ刑務所に拘束され、そこで過激思想を持つようになったというのです。ブーカ刑務所に拘束されていた経験がある男性(ISとは無関係)は当時のことを振り返り、「刑務所内は米軍への怒りから過激派の養成所のようであった」と話しています。イラク戦争では、米軍は「テロ掃討」の名目で、明確な証拠も裁判もなしに、あるいは、情報を得るためだけにイラクの人々を拘束していました。米軍に攻撃を行っている武装勢力のメンバーらを拘束するために、その家族である女性を連行したという事例も、現地人権団体などから、いくつも報告されています。米軍に拘束された人々はとてもひどいあつかいを受けました。04年4月末に発覚したイラクのアブグレイブ刑務所での虐待事件など米軍兵士による捕虜虐待は世界に衝撃を与えましたが、同刑務所で拘束された経験があり、米軍の虐待を告発するアリ・サハル・アッバスさんは「明るみになったのはごく一部。虐待は当たり前のように起きていました」と話します。「私たちは殴られ、小便をかけられ、電気ショックに苦しみ、何時間もヘッドフォンで大音響の音楽を聴かされました。何日も裸にされ、水や食料も与えられませんでした」(アッバスさん)。こうした中で、米軍はもとより、アメリカを支持し、自衛隊をイラクに派遣した日本にも敵意が向けられるようになったのです。04年5月末、フリージャーナリストの橋田信介さんと小川功太郎さんがイラク中部マハムディアで襲撃を受け、殺されてしまいましたが、辛くも生き延び、私の取材に応えた橋田さんの運転手だったイラク人男性は、橋田さんたちの車を追ってきた襲撃犯たちは「助手席に乗っていた橋田さんを確認して撃ってきた」と証言。また、現地マハムディア周辺の住民たちは「橋田さんたちは日本人だから殺された」と言っていました。同年11月には日本人旅行者の香田証生さんがイラクで誘拐されました。香田さんを誘拐したグループは自衛隊のイラク撤退を求めていましたが、当時の小泉政権が拒否すると、香田さんを殺害。そして香田さんのご遺体を、星条旗、つまりアメリカの国旗に包み、路上に捨てたのです。この時の犯行グループこそ、ISの前身組織だったのです。ISは、現在も日本を敵視しており、世界各国の支持者たちへ日本人へのテロを呼びかけています。今後、安保法制によって日本が米軍と共に中東やその他のイスラム世界で、現地の人々を殺すことになれば、ISの呼びかけに同調し、日本人を殺そうとする勢力は増えてくることでしょう。
日本でもイラク戦争の検証を!
筆者は、09年11月より、イラク支援NGO関係者や、平和運動関係者らの仲間と共に、イラク戦争の検証を求めてきました。しかし、12年末に外務省が公表した検証はその具体的な内容は公表されず、さらに当時の外務省としての対応を自己弁護したものにすぎませんでした。また、安倍政権は、既に外務省が行ったとして、イラク戦争の検証をやる必要がない、という見解を岸田文雄外務大臣が記者会見で示しています(13年3月19日)。しかし、昨年の安保法制の、戦争の実態とあまりにかけ離れた審議を見て、やはりイラク戦争の検証は必要だと思わざるをえませんでした。そこで、超党派有志の国会議員とNGO関係者、学識経験者などによるイラク戦争検証公聴会を5月末に開始することにしました。その具体的な内容は、今後、明らかにしていきますが、もう二度と、日本が誤った戦争を支持・支援することがないよう、しっかりとした検証を行っていきたいと考えています。