仁藤 私たちの活動を支えてくださる方の中で、ずっとお話してみたかった人がいます。日本を代表する卓球選手の水谷隼さんもそのお一人。2017年末、念願がかなってご本人にお会いすることができました。なぜ水谷さんは女子高校生サポートセンターColabo(コラボ)を応援してくださるのか? ぜひ伺ってみたいと思います。
子どもたちは平等であってほしい
仁藤 いつもご支援いただきありがとうございます! 水谷さんとの出会いは2016年のリオデジャネイロオリンピックの最中、Colaboが企画した「私たちは『買われた』展」の告知を、ご自身のツイッターでリツイートしてくださったのが始まりでしたね。
水谷 僕が仁藤さんの活動を知ったのは、リオデジャネイロオリンピックの少し前のことでした。そのころ、あるテレビ番組で経済的、家庭的な事情を抱えた子らに食事や居場所を提供する「子ども食堂」という活動を紹介していて、そこから子どもたちのサポートをしている人や活動に興味を持ちました。で、いろいろと調べている中で、仁藤さんやColaboのことを知りました。
そうしたら仁藤さんは僕と同い年で、そんな人がさまざまな支援活動や講演活動をしていてすごいな、と。それで応援したいと思ったんです。
仁藤 水谷さんのリツイートや支援のおかげで「こういう活動があると知ることができてよかった」「こういう女の子が日本にいるとは知らなかった」という連絡を、今もたくさんいただくんですよ。もちろん、支援を受けた女の子たちも喜んでいます。
ところで、日々世界中を転戦している水谷さんが、子どもたちのことに関心を寄せられたのはどうしてですか?
水谷 子どもって、たとえば家庭が貧しいとか、生まれた時の環境は自ずと決まっちゃってるじゃないですか。虐待とかいじめとか、大人になった時に悪影響が出てしまうような環境もある。だから、子どもたちにはできるだけ平等であってほしいんです。そのために何か手助けできたらいいな、と。
仁藤 なるほど。私も水谷選手にお礼のメッセージを送ったら、すぐに「支援できることがあったら知らせてください」というご連絡をいただきましたね。ちょうど行き場のない女の子のためのシェルターを増設準備中で、思い切って「ソファを買うお金がありません」と伝えたら、何とすぐに贈ってくださった。
その後は私の著書をお送りしたり、水谷さんからColaboの活動に応援メッセージをいただいたり……さまざまな交流をさせていただきました。でも、お会いするのは今日が初めてなので、すごくうれしく思います!
水谷 あのソファを子どもたちが使ってくれていると聞いただけで、僕はもう満足。「協力してよかったなぁ」と思いますね。
仁藤 水谷さんのように見返りを求めずに支援してくれる人は、本当にわかってくれているというか……とてもありがたいです。子どもたちが安心して将来に向かってくれればいいという、ただその気持ちだけで支援してくださっている。それが「支える」っていうことなんだと思います。
自分は学校に行けなかったから
水谷 僕がこのような支援をさせていただいたのは、もともと「人の役に立ちたい」という想いが、ずっと心のすみっこにあったからなんです。
仁藤 その想いはいつごろからあったんですか?
水谷 20歳くらいからですね。それまでずっと卓球選手としてやってきて、普通の子と違って学校にも全然行けなかったし、でも収入は同世代の人たちよりもあって……自分の中で周囲の人たちとの間にギャップが出てきたのを感じたんです。気がつけば心を開ける友だちもいなかったし、学校に行ってない人たちの気持ちもわかる気がしました。自分がそういう痛みを感じていたから、子どもたちには同じ想いをしてほしくないんです。
仁藤 どうして、学校に行けなかったんですか?
水谷 卓球選手としての養成を受けるため、中学生になってドイツに渡ったんです。学籍は日本の中学校に残したままでしたが、結局2、3回しか登校できませんでした。高校も同じで、修学旅行や卒業式にも参加したことがなくて……当時はそのことがすごく悲しかった。
僕は学校に行きたい気持ちがあったけど、自分の夢のためにはどうしようもなかった。だからこそ、いろんな理由があるだろうけど、学校に行くことを自ら拒んでしまっている子たちには勇気を出して行ってほしいと思うんです。学校へ行けるという、人生で貴重なチャンスに背を向けてしまうのは、あまりにも悲しい。
僕の場合、不登校ではなくて、行ける時には学校には行ったんです。だけど、当時は少なからず「今さら感」もありました。教室に入っていっても友だちはいないし、授業を受けたところで急には興味がわかないし、行く意味あるのかなって。
仁藤 いきなり一コマだけ授業を受けたって、何をどう学んでいいのかわかりませんよね。
水谷 本当、そうでした(笑)。
仁藤 学校行事があっても自分は関われないし。
水谷 途中からだとそうなっちゃいますよね。高校も同じで、中学の授業もあまり受けてないのに、わかるわけないじゃないですか。
仁藤 わぁ、すごい共感する!(笑) でも、そうしたことを大人になって話す機会は、なかなかありませんよね。だから水谷さんが中高生の時にそんな想いをしていたと知ったら、「同じ想いをしてきたんだな」と思う気がします。私のことも「自分とは違う世界の人」だと思ってる中高生は少なくないんですよ。それがオリンピックのメダリストとなると、もっとそう思われますよね。
でも、そういう人が自分たちに想いを寄せてくれている。それって共感するところがあるからかなって考えると、まだまだ自分もやれるんじゃないかって。絶望の中にいても、ちょっとでも気にかけてくれる人がいるということを思い出せるんじゃないかなって――。
水谷 学校に行かない理由は、いろいろあるでしょう。行かなくても何とかなるとは思います。もちろん行ったほうがいいだろうけど、学校がすべてではないと思うし、行けない子もみんな幸せになってほしいんですよ。