あなたは相手から次のようなことを言われたことはありませんか?
「あなたのしていることはDV(モラハラ)だ」
「あなたが怖い」
「なぜそんなにすぐ怒るの?」
「私のせいにしないで!」
「あなたは家事や子どものことを何もやってくれない」
これらを何度か言われたことがあったら、あなたはDVをしているかもしれません。
この言葉は、DV被害女性をサポートする一般社団法人「エープラス」のサイトに書かれたものである。
2006年から活動する「エープラス」は、多くの女性たちに寄り添ってきた。そんな「エープラス」代表理事は、本連載の「なぜ、セクキャバに行った彼はDV加害者プログラムへ通うのか」(21年12月)にご登場頂いた吉祥眞佐緒(よしざきまさお)さん。
彼女は私にとって、最も尊敬する支援者の一人だ。コロナ禍の女性不況、「女性による女性のための相談会」でご一緒し、間近で彼女の女性支援を見てきた。
常に女性に寄り添い、しかし、行政に対して主張することは主張する。そんな吉祥さんは私にとって「強い女性」「NOと言える女性」の代表格のようなものである。
だからこそ、「なぜDV支援を?」という問いへの答えに驚いた。「自分が被害に遭って大変だったから」と言うではないか。今、こんなに強く見える彼女がDV被害者だったなんて。
ちなみに、「エープラス」で支援活動をする女性たちは、全員DV経験者。
「DVなんて無関係」と思っているすべての男性、そしてパートナーといい関係でありたいすべての女性たちに読んでほしい。
01年、この国ではDV防止法が施行された。04年に成立した改正DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)では、殴る蹴るの身体的暴力だけでなく、「罵る」「バカにする」「大声で怒鳴る」などの精神的暴力もDVに含まれることが明記された。
現在52歳の吉祥さんがDVに悩んでいたのは2000年代前半、30代の頃。夫から直接的な暴力はなく、精神的暴力だった。子ども5人を抱える専業主婦だった彼女は役所などに相談するものの、「あなたのはDVじゃない」と言われ続けたという。
「役所も警察も、『殴られてないからね』って。『気にしすぎ』『あなたが夫をうまく操縦すればいい』『でもあなたの場合はDVじゃないからシェルターに入れない』って言われて……。その頃は行政にも女性への偏見があって、『生意気なことばっかり言ってるから夫さんそりゃ怒るよね』って感じで、本当に悔しかったです」
精神的DVだけでなく、夫は家にろくにお金を入れなかった。経済的DVだ。しかし、世帯収入が高いので、公的支援は何一つ受けられない。離婚を考え、保育園に子どもを入れて働こうと思っても、夫の収入が高いので保育料も跳ね上がる。
困り果てていたある日、離婚のきっかけとなることが起きる。深夜に酔って帰った夫が家で暴れたのだ。たまらず110番通報した彼女は、警察署で事情聴取を受け、「このまま実家に行きなさい」と説得される。家で寝ていた子どもたちを迎えに行きたかったものの、警察は「次の日でいい」。夫に頭を冷やしてもらおうと実家で一泊し、翌日、子どもを迎えに行こうと警察に連絡したところ、返ってきたのは「子どものことはもう忘れろ」という信じがたい言葉。
「騙された! と思いました。上の子2人は小・中学生で携帯持ってたんで合流できたけど、すぐに夫が家の鍵を替えて、下の子3人とそのまま会えなくなっちゃったんです」
この時点で、下の3人は0歳、1歳、2歳。これまで子どもの世話をしてこなかった夫のもとに乳幼児3人が残されてしまったのだ。
慌てて役所に相談するものの、「警察の対応が正しい」の一点張り。それだけでなく、「一瞬でも子どもと離れたあなたが悪い」と悪者にされてしまう始末。
とにかく、一刻も早く子どもを取り返さないと。離婚調停と同時に監護権者(子どもと一緒に住んで養育を行う人)の指定と子の引き渡し審判申し立てを始め、また、今後の生活のために住む場所も探した。