小林 そうなんです。コロナ感染拡大を受け、最初に厚生労働省と東京都が「一時宿泊の施設は個室が望ましい」という事務連絡を各福祉事務所に送りました。今ある一時宿泊の施設は、個室であっても感染リスクが高いと言われる食堂、風呂、トイレなどは共用ですからね。感染予防として万全とは言えない。そこで都もビジネスホテルの客室を借り上げて提供に踏み切ったわけです。ですが、実際ネットカフェを出されて行き場を失った人たちに、ビジネスホテルを提供した区や市って全体の何パーセントぐらいあったんだろう?
雨宮 絶対にビジネスホテルはあり得ない! 使わせない! という福祉事務所もあるわけですよね。
小林 相談者が単独で福祉事務所に相談に行ったら、ほとんど使わせてもらえないですね。
雨宮 相当に上級レベルの支援者が一緒に行って交渉しないと、ビジネスホテルに宿泊しながらアパートを探して住居確保するという最善コースは……。
小林 出てこないです。
雨宮 東京都が打ち出した支援事業であるはずのビジネスホテルの話をこちらからしても、「いや、うちはやってないから」って、平気で都内の福祉事務所が言うんですよ。20〜21年の年末年始、都はビジネスホテルを1日あたり1000室準備するって言ってたじゃないですか。それが結局、住むところがなくなった人たちのうち250人ほどしか泊まれなかった。広報が全くと言っていいほどされなかったから、ほとんどの人がこの制度を知らないままでした。年末年始に新宿区内の大久保公園で開いた「年越し支援・コロナ被害相談村」(以下、コロナ被害相談村)に相談に来た人たちに「ホテルに泊まれますよ」と言ったら、皆びっくりしていました。
小林 福祉事務所は「相談者が自分のところにどっと押し寄せてきたら困る」と思っている印象を受けます。
雨宮 安定した生活に結び付ける、つなげていくきっかけに一番できる機会なのに、一部の福祉事務所は自分たちの市区以外のところに行かせようとしてると感じましたね。きちんと対応してくれれば、仕事を失った人たちも労働者として復活できる。そうすれば税金も納められて、自治体にとってもよくなるのになって、いつも思います。
普通の女性が炊き出しの列に繰り返し並ぶ!?
雨宮 「つくろい」のメール相談フォームには当初、女性からの相談がすごく多かったんですよね。
小林 ネットカフェで暮らしてる人たちの多くが、アルバイトとか日雇いとか非正規雇用の若い人たちです。働く先は飲食店とかホテル、性風俗店などです。コロナが一番打撃を与えたところが接客業で働く若い女性でした。だから、最初の頃は若い女性の相談者が多かった。ただ、21年1月8日から始まった2回目の緊急事態宣言下ではネットカフェが営業しているせいか、私たちのところに届く女性相談は昨年の春に比べると減りました。
雨宮 「コロナ被害相談村」には、3日間で344人が相談に訪れ、そのうち女性は62人でした。コロナ禍で驚くのは、失業だけが理由でホームレス化しているという女性の存在です。貧困問題に関わって15年になりますが、これまでに出会ったホームレス状態の女性は、失業以前に、DVから逃げているとか虐待を受けていたとか、複雑な事情を抱えていました。でも、今回は失業から生活苦という人がすごく多い。「コロナ被害相談村」でも一番多かったのは生活相談です。また、来た女性の29%がすでに住まいを失っていました。そういえば、年末年始の相談現場で「つくろい」が、生活保護のアンケートを取ってましたね? その中に、家族のために炊き出しを渡り歩いて、食料をもらっている女性がいましたよね。
小林 はい、私がお声掛けした方です。
雨宮 旦那と子どものために都内の炊き出しをめぐると知って、ショックを受けました。昨年から炊き出しに並ぶ女性を見かけるようになりましたよね。それまでは「常連」の男性中心だったけれど、池袋でも、新宿の都庁前でも、「普通の女性」が目立つようになってきています。2巡目、3巡目と列に並んで複数人分の食事を持って帰る人がいる。なんか変だな? と思っていたら、家族のために並んでるんだって、アンケートを見て初めて知りました。
小林 私もびっくりしました。家族の分の食料を炊き出しで賄うって……。どこの国の難民キャンプだって思うんですよ。
雨宮 でも、身なりとか普通なわけですよね。池袋で年末に食品配布をしていると、ミニスカートの女の子とか、上品な奥さま風の人がやっぱり2巡目、3巡目と並んでいました。前参議院議員の山本太郎さんも一緒に配布していたんですが、いつもなら「あ、山本太郎だ」って気づくのに、みんな切羽詰まっているからか誰一人気づかない。周りを見る余裕もないんです。1年前に比べても、切迫感が全然違います。昨年の5月から夏ぐらいは、まだ余裕があったんですけど。
小林 本当に結構ひどいところまで来てますよね。貧困って、小さい穴があったら、そこがどんどん広がって、いろんなことが原因になって落ちてきちゃうんですよね。虐待だとか家族の不仲とか、そういうところから逃げてきてネットカフェとかに暮らし、助けを求める先がない。仕事がなくなったらもうアウトなわけですよね。
雨宮 その仕事でも、一度もいい思いしたことない人が多い。ひどい目に遭って、しょっちゅうクビになったり、パワハラに遭うのがスタンダードだと、「休業手当を受けたら?」と言われても、「いや、ずっとこれなんで大丈夫です」となってしまう。突然切られて放り出されることが「普通」だと思っている。まともな扱いを受けてないから、保障があることを全く知らないんです。
支援は相談者との信頼関係づくりから始まる