小林 コロナ禍にあって、生活困窮は誰にでも他人事ではなくなって、一般の人たちからも何かしら支援したい! という声が高まっています。でも、どうやったらいいか分からないという声も大きいですね。
雨宮 今、道を歩いていても、ホームレスになりたてなのかな? という若い人が座っていたりしてますよね。でも、声を掛けるのは難しいという一般の方のご意見はよく耳にします。実は私も、なかなか声を掛けられない。小林さんは、どうしてますか?
小林 私も、すべての人に声を掛けるわけではありません。ただ、食べ物を持っている時は、必ずそれを渡しちゃいます。
雨宮 知らない人にもですか?
小林 はい、路上にいる人に。急いでいても、アッと気づくと、「これ、よかったらどうぞ」ってお渡しします。その後は「いつもあそこにいるのかな、それだったら今度もう一回寄ってみよう」と気には留めます。でも、毎回立ち止まりはしてないです。具合が悪そうだったり、倒れていたら誰であっても、もちろん声は掛けます。でも、声を掛けられるほうも警戒すると思うんですよね。
雨宮 向こうからしても、私たちのことを“カモにしようとする怪しい人”だと思っているかもしれませんよね。私たちの相談会に来た人は、「たとえ怪しい団体だったとしても、お腹すいてしょうがないから来ました」と言ってました。本当に所持金ゼロだったので小額の支援金を給付すると、「これどうすればいいんですか。このお金に見合う何をすればいいんですか」と言ってきて、「給付しますから」と伝えても、「いや、返します」って言い続けて。「ボランティア団体だからあなたに貸すことはできないんですよ」って説明することになるんです。
小林 困窮状態にある人は相手を怪しいと思っても、弱い立場にあるから「はい」しか言えない状態になってますよね。そっけなく断って、怒鳴られたり暴力振るわれたら怖いと感じている。圧倒的に弱い立場にある。だから、行政の相談窓口に行っても、ただ「はい」と職員の言いなりになってしまう。
雨宮 そうですよねえ。
小林 私たちも、もう何回も会っているから相談者と信頼関係はできていると思っていても、実はそうでもないことがあります。「つくろい」が借り上げているアパートにお連れする時など、こちらが懇切丁寧に説明すると「はい、はい」って聞いてくれますが、実際にアパートに到着するまでは「どこに連れていかれるのか。怖い」と思っている場合もある。多くの人は、過去にひどい体験をたくさんされていますからね。福祉事務所の人もそうだけど、私たち支援者も、相談者にとっては力のある存在であって、彼らと対等ではないというのを知っていないといけないなっていうのを思います。
「死なないノウハウ」がすごく貯まった
雨宮 支援をしていて嬉しいこと、葛藤することはどんなことでしょうか?
小林 いろんな人に出会える面白さはあります。大事に思う人が増えるんですよね。で、あわよくば相手からも大事に思ってももらえる。最初は「支援する人・される人」だった関係が何年も経っていくと、それが逆転したりするんですよ。向こうがこっちの面倒見てくれたり心配してくれたりとか、そういう自然な関係になっていくのはすごく楽しいですね。もちろん、自分の価値観とは相容れないことも多々起きます。そんな時に否定してしまいがちですが、いろんなものを「これもヨシ」と受け入れなくちゃならない。でも、それには自分の価値観をどこかに置いてきたり、あるいは壊さなきゃいけない。これまで40何年、50何年かけて積み上げたものを壊すというのは、けっこう痛いんです。だけど、乗り切ったあとにどんどん視界が開けていく。相手以上に自分が楽になるということに気がついた。
雨宮 あと、当事者の人がどんどん元気になっていきますね。やっぱり最初に会う時って、その人の人生で最悪ぐらいの、一番どん底の時じゃないですか。でも、付き合っていくうちに「え、この人、こんな元気だったんだ」とか、「こんなに表情豊かだったんだ」みたいな気づきはすごくありますね。
小林 笑わせてくれたりすると、びっくりしますよね。ただ、やっぱり変わらない人もいます。私たちは相手が自分の期待するような姿に変わることを潜在的に求めがちなんですが、変わらない中でも長く付き合っていくと、また違う面が見えてくる。「変わらなくても、ま、いいや」とだんだん思えてくる。自分の価値観がすべてではないのに、その小さな器に相手を押し込めるのはこちらの欺瞞です。でも、そう簡単に悟ることはできず、ちょっとずつしか成長はできない。葛藤は日々あります。相手に心のどこかでイラついたりする時、自分が試されているんだと感じます。
雨宮 もし自分がめちゃくちゃ借金背負って、何らかの原因で周りの人を全員裏切って一文無しになっても、なんとでもできるという自信は生まれてこないですか。こういう活動をしてきたおかげで自分に「死なないノウハウ」はすごい貯まったな、って思います。何があっても、貧困や経済的理由では絶対に自殺しないぞという自信はありますね。私はフリーランスだからいつ仕事がなくなってもおかしくない、1年後どうなってるか全然分からない。それでも自分がこの問題に関わるようになって、もうどうなっても生きていけるし、逆にそれをネタにできるなって思うようになりました。
小林 たくましい!
「支援する・される」ではなく「互いに支え合う」に