雨宮 こんなデータがあります。貧困問題に取り組む学者らからなる「貧困研究会」が、生活に困った人々から寄せられた「電話相談」のデータ分析をしています。21年2月に発表された「12月の調査結果」では、「今年の2月と比較してどれほどの収入減か」という質問に、フリーランスが平均マイナス12万1000円、自営業がマイナス8万3000円、派遣社員がマイナス8万3000円という回答でした。分析対象は458件です。
小林 そういうデータって、とても貴重ですね。大変さが本当に分かります。
雨宮 なのに、国はこういう調査をしません。細かい実態調査は絶対必要ですよね。私は、今こそ貧困問題についてひっくり返せる時だと思っています。私たちは昨年3月から「緊急ささえあい基金」を設立して寄付金を募集し、「新型コロナ災害緊急アクション」を立ち上げて支援金を拠出しています。そうして20年末までに1700世帯以上に対し、5000万円以上を支援しました。寄付金は1億円近く集まっていて、市民の間に「助け合い」が復権してる感じがします。
小林 それは私も感じています。
雨宮 でも世の中の風潮は二極化もしていて、「自己責任」「自力で生き残らなくてはいけない」という形での淘汰も始まっています。本当に生きるか死ぬかのサバイバルを続けて、追い詰められている人もいます。だから「こっちに来たほうが楽だよ」「こっちに来れば他人を蹴落とし、生きるか死ぬかのサバイバルをずっと続けなくてもいいんだよ」というのを、このコロナ禍の危機を通じて伝えることができればいいなと思って活動をしています。
小林 今、特に被害を受けているのは、元々脆弱な立場にあった人たちですよね。短期契約の仕事を空中ブランコのように渡りながら働くしか選択肢がなかった人は、コロナ禍で仕事が減ったら次のブランコに飛び移れなくて落ちちゃうわけです。そういう人たちが直面している問題の本質を理解し、解決することをしないと、よほど好景気が続かない限りどんどん落ちてしまう。福祉事務所だけをどうこうしても、どうにもならない。貧困問題は教育や労働環境など、社会システムの欠陥が引き起こす問題です。社会的な問題であるにもかかわらず、個人の問題にすり替える社会はあまりに未熟で身勝手で残酷ですよね。「生存」が椅子取りゲームであってはいけない。
雨宮 問題はより複合化して、あらゆる人が考えるべきものになっています。
小林 ええ。この社会システムに疑問を持たずに支えてしまっているのは、この社会に生きる人すべて。私たち一人ひとりに責任はある。知らない誰かの困窮に完全に無関係な人は一人もいない。今こそ、社会というのがどういうものか考え直してもらえたらいいなと思うんです。どういう社会に私たちは生きたいのか? 人は生きてる限り、誰の世話にも迷惑にもならないなんて、あり得ない。みんな助けてもらったり、自分に余裕がある時は助けたりしながら成り立つものでしょ? 税金で支えられる制度もそうで、必要になった人達のためにあるものでしょ?
雨宮 それは大きな声で言いたいですね。
小林 「自己責任」「自業自得」というつまんない言葉よりも、「お互いさま」という考え方にだんだんシフトしていってくれたらなと、このコロナ禍だからこそ思っています。「みんな一緒に助かろう」という発想を、誰もが持ってほしいですね。