そんな彼がガンであることを知ったのは数年前。しかし、変わった様子はあまりなく、死の前月まで自身のバンドのライブにも出演。
そんな彼が突然亡くなった週の土日、行きつけの居酒屋には棺が持ち込まれ、「ぺぺ長谷川をみんなで送る交流会」が開催された。2日間にわたり、全国から集まったのは約700人。みんながぺぺさんの棺に寄せ書きをし、その周りでお酒を飲んだ。店に入りきれない人たちは近くの公園で大宴会。その光景は、ぺぺさんの「交流人生」の集大成のようだった。
ぺぺさんらしかったのは、楽しい思い出ばかりではなく、滞納家賃もたくさん残して逝ったことだ。しかし、それを知った友人知人たちから多くのカンパが集まり、瞬く間に滞納家賃問題は解決したのだから天晴れとしか言いようがない。また、ぺぺさんの家族は皆亡くなっていることから部屋の片付けなどを友人らが担ったのだが、そこは21世紀なのに南京虫が巣くう魔境。友人らは全身防護服に身を包み、福島第一原発に入る作業員のような姿で汚部屋と格闘。無事、南京虫との戦いに勝利したという。
鈴木さん、ぺぺさん、どちらもお金はなかったけれど、彼らを愛する人たちが大勢いたという点で共通している。
さて、このように身近な人の最期を立て続けに目の当たりにすれば、どうしたって「私が死んだ後、どうなるのだろう」という思いが湧いてくる。2人とも私と同じ独り身、一人暮らし。気になるのは死んだあとのことだけではない。死に至る過程で寄り添ってくれる人はいるのか、介護してくれる人はいるのか、お金はあるのかといった心配も次々に湧いてくる。
ちなみに私は40代後半だというのに、民間の医療保険などにはひとつも加入していない。老後に備えていることは皆無で、フリーランスなので頼りは国民年金だけ。最近、「将来もらえる年金額」みたいな通知が来たが、月に4万円とかだった。これから先、結婚の予定なども当然ないし、私は東京在住、親と兄弟は全員北海道なのでいざという時に頼れる距離ではない。今のところ、コロナにかかった時などは友人に家の前に食料を「置き配」してもらうなどして助けてもらってきたが、老いるということは、そんなふうに頼れる誰かがどんどん死んでしまうことと同義である。考えるほどに、不安がむくむくと頭をもたげ、大きくなっていくではないか。
そんな最近、さらに不安を掻き立てるような一冊を読んだ。それは猪熊律子著『塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で』(角川新書、2023年)。
タイトル通り、刑務所に入っているおばあさんについての本なのだが、今、刑務所には高齢女性が増えているという。そんな「おばあさん」たちが刑務所に入る理由の9割は「窃盗」。
本書によると、男性受刑者は著しく減っているにも関わらず、女性受刑者は高止まりの傾向。20年の女性の受刑者は1770人。入所者全体に占める割合は10.6%で、戦後初めて10%を超えたという。
その中でも増加ぶりが目立つのが、65歳以上の高齢女性。1989年にはわずか1.9%だったのが、今では19%と約2割。そして罪名は、高齢女性では89%が「窃盗」とダントツなのだという。
本書には、刑務所に高齢者向けとして軟らかい食事や「刻み食」が用意されていること、また介護福祉士の手を借りて入浴し、刑務官におむつ交換をされる高齢受刑者の姿が描かれている。
実際に万引きで捕まった女性もインタビューに応じている。「トマトやキュウリ1本ぐらいでここに来ちゃった」と語る70代女性が刑務所に来たのは7回目。夫の暴力への「腹いせというわけでもないんだけど」、万引きをすると気持ちが落ち着いたという。
別の80代の女性は、スーパーで野菜やおかずを盗んで刑務所へ。入所は3度目。生活に困窮していたわけではないが、夫やきょうだいの死などの喪失感、また老後への不安から節約したいという思いがあったようだ。
また、ある80代の受刑者は、「デコポンとリンゴ、牛乳、レトルトのカレー」を盗んで刑務所入り。別の90歳近い受刑者は、「スーパーでイチゴを盗んだ」。70代まで仕事をしていたが、「生活が苦しく、コメなどの食料品をそれまで何度か盗んだ」果ての犯行。また別の70代女性は、「節約したい」という思いから夕食の材料を盗んで収容されたという。
本書によると、高齢者が盗んだものの金額は3000円未満が約7割を占め、品物は食料品類が69.7%(法務省「平成30年版 犯罪白書」)。
万引きの動機として多いのは、高齢者の場合「節約」。高齢女性ではその割合は約8割にまで上るという。また、高齢被疑者は一般高齢者に比べ、「現在の生活が苦しい」と感じている者の割合が多く、一般高齢者17.7%と比較して、高齢被疑者では44.6%。