今回は新刊『「女子」という呪い』発売を記念して、タレント&エッセイストとして活躍中の小島慶子さんとのスペシャル対談をお送りします。元TBSの人気アナウンサーでもあった小島さんですが、一見華やかなテレビ業界も、その裏側にはオッサン社会ならではの生きづらさが渦巻いていたとか――。
雨宮 いきなりですけど、女子アナって全女性の敵ですよね(笑)。
小島 おいしいところを全部持っていきますからね。
雨宮 そうそう。容姿端麗でいろんな能力を持っているのにもかかわらず、無知なフリをして男性をきちんと立てることができる。それをすべて計算ずくでやっているのに、分かってない男が「女子アナみたいな女の子と結婚したい」なんて言うもんだから女性の反感をかってしまうわけですけど。小島さんはご自身の著書で、そんな女子アナというロール(役割)を演じている自分に誇りが持てなかったと書いていらっしゃいますね。そもそも、どうして女子アナになろうと思ったんですか?
小島 経済的自立と承認欲求ですね。過干渉な親から経済的に自立して、父が私に与えてくれた生活と同じレベルの生活を維持するには、女性総合職に就くしかないと思いました。とはいえ、銀行や商社に入れるほど一生懸命に勉強していたわけではないので、難しい学科試験のない局アナ以外、選択肢がなかったんです。あと、会社員でありながら個人名で有名になれるので、リスクをとらずに自己肯定感を高めることができるのではないかとも思いました。で、採用試験に合格して男性と対等の立場を手に入れて、「よっしゃ、終身雇用で人様の何倍もの収入を手に入れられる!」と思ったら、入社翌日から若い女子ロールを求められて、なんだこれ、ちっとも対等じゃないぞ、と。
雨宮 例えばどんなことを求められるんですか?
小島 同期の女性アナ3人が、いろんな部署の男性社員から食事やお酒の席に呼ばれて、だめ出しされながら「お前はいじられキャラだな」「お前はさわやかキャラだ」「お前はヒールだな」とか言われるんですよ。
雨宮 安上がりなキャバクラみたいですね(笑)。
小島 その通りです。宴会の席なんかでは、暗黙の了解のようにオジサンの隣に座らせられますからね。まるで貢ぎ物みたいに。
雨宮 笑顔でお酌しろよ、みたいな。
小島 今は絶対にしないですけどね(笑)。あと、会社を辞める時にエラい人から「会社を辞めるってことは、これからウチの局の番組に出る時にはギャラをとるってこと?」と聞かれたので「そうですね。よろしくお願いします」と答えたら、「僕は女性に値段を付けるなんてことはできないな」と言われたんです。それを聞いた時、辞めて正解だと思いました。結局、局アナを15年やって、やれ読みのプロだとか日本語のプロだとか言われてたけど、本音は制作費の中から出演料を支払わなくてもいいうえに所属事務所に気を遣わなくてもいい便利なタレント。つまりタダで使えるみんなの女だったんじゃないかと。
雨宮 まさに、会社所有のというか……。
小島 会社を辞めたあとも、以前からパーソナリティーをしていたラジオ番組はタレントとして引き続き起用してくれたのですが、少ししたらプロデューサーが替わって、「自営業をやっている40代、50代の男性の数字(聴取率)が欲しいから、男性を立てるようなトークをして」と言われたんです。なんてこと言うんだと驚きました。ラジオやってる人がそんなこと言ったらおしまいですよ。リスナーを人としてではなくターゲットとしてしか見ていないし、喋り手のことも人ではなく意のままにできる商品だと思っているからそんなことを言うんです。長い付き合いのある男性スタッフでしたけど、プロデューサーになった途端にこれかと、心の底から失望しました。心を開いて聴いてくれている人が何十万人もいるのに、ターゲット向けのトークをしろなんて、喋り手の良心を捨てろと言うようなものです。普通はメインパーソナリティーにそんな失礼なことは言えません。やはり「もともとはタダで使えるみんなの女だったくせに」という意識が残っているんだなと思いました。
雨宮 ずっと元カノ扱いみたいな感じですね。
小島 そうなんですよね。オヤジウケする番組にしたいなら、そういう女性をキャスティングすればいい。で、私はプロデューサーが望むようなしゃべりはできないという理由で自ら降板を申し入れました。その後、番組の終了が決定。番組を終わらせるか続けるかは放送局が決めることで、私に権限はありません。なのに「おまえのせいで番組が終わるじゃないか」と文句を言ってくる関係者の男性もいて。放送局のエラい人には怖くて言えないんでしょうね。言外に、女のくせに男の俺の仕事を潰しやがってという上から目線が伝わってきました。いわゆる女子アナ的な役割がどこまで振られ続けるのかと、本当に腹が立ちましたよ。
雨宮 女子アナって、高度なテクニックや教養、美貌などありとあらゆるものが求められますけど、それって全部、男性の欲望を満たすためのものなんですよね。
小島 本来はそうではないはずだけど、ディレクターやプロデューサーをはじめ組織の意思決定層が圧倒的に男性であるために、そうなっちゃってるんです。どうせ使うなら若い子がいいねとか、司会者がおじさんだから女子つけとこう、という安易な発想で。最近は子持ちの中年女性アナも活躍しているし、少しずつ変わってきているのは喜ばしいことですね。それにしてもバブルの頃から長きにわたって、テレビを通して「これが男にモテる女だよ」というお手本を世間に広めてきたのは罪深い。そういう価値観を強化し続ける役割を、自分の五体と脳ミソを使ってこの先もやり続けるのかと思うと本当にしんどくて。「年間1000万円もらったって誇れねーわ」と思ったのが、会社を辞める理由の一つになりました。