新型コロナウイルス感染が日本でも拡大し始めて、そろそろ1年が経つ。
あなたにとって、この1年はどんなものだっただろう。多くの人に共通するのは、飲み会も旅行もカラオケも縁遠くなった1年ということだろう。
もちろん、私にとってもそれらから遠ざかった1年となった。そんな中、最もダメージを受けているのはこの1年間、「ライヴに行っていない」ということだ。1990年代にバンギャ(ヴィジュアル系バンドが好きな女子の総称)となり、一時はその世界を離れたものの、2009年、30代にして「第2次ヴィジュアル系ブーム」が個人的に到来。以来、ライヴハウスに通い続け、10代20代で埋め尽くされた会場の平均年齢を上げ続けてきた。
そんなこの十数年間、1カ月や2カ月ライヴハウスに行かないことはあっても、「1年間、ライヴに行かない」なんて、ありえないことだった。登山家が山に登るように、野球選手が野球をするように、私が「ライヴハウスに行く」ことはもはや日常の一部であり、人生にとってなくてはならない行事になっていたのである。
楽しみなのはライヴだけではない。10年前、同好の士3人で「チーム折りたたみ」という秘密結社(?)を結成。「折りたたみ」というのは、ライヴ中のバンギャの振り付けというか動きの一つなのだが、そんな名前を冠した「チーム」の仲間で連れ立ってライヴに行き、存分に心の中で折りたたみ(実際の「折りたたみ」は腰痛その他でなかなかできない40代)、ライヴが終わったあとは居酒屋で互いに飛沫を飛ばしまくりながら「今日の推し」について熱烈に語り、気が付けば終電を逃し(想定内)、深夜2時頃には自分のことは棚に上げて「推しの老後を心配する」――。
そんなワンセットが私にとっての「ライヴに行く」という儀式で、どんなに嫌なことがあってもこの一連の流れに身を委ねれば完全リフレッシュ。「さぁ、次はいつライヴに行く?」という感じで完全に「生きる動機」となっていた。しかし、なんということだろう。この1年、そんな至福の時間を持てていないのである。
これがじわじわと、私を追い詰めている。そんなふうにライヴに行けなくてモヤモヤしていた20年末、衝撃のニュースが飛び込んできた。ヴィジュアル系の「聖地」の一つであり、私もよく行っていたライヴハウスが閉店することが発表されたのだ。しかもその2日後には、もう一つの「聖地」ともいえるライヴハウスの閉店も発表された。
あの「ハコ」がなくなるなんて。
この時、私は自分でも驚くほど落ち込んだ。
どんよりと沈みながら、思った。
今、いろいろ我慢に我慢を重ねてるけど、コロナが収束しても、楽しいことなんて何一つないのかもしれない。今、何となく将来の楽しみのためにと思って耐えてるけど、そんなものをコロナはすべて破壊し尽くしてしまうのかもしれない、と。
だって、こうしてライヴハウスは次々と閉店していって、ライヴのあとによく行っていた居酒屋だって気が付けばなくなっていって、最悪、好きなバンドたちだって解散していくかもしれないのだ……。そう思うと、びっくりするほど簡単に「生きる意味」が揮発していく気がした。全身から力が抜けるような、自暴自棄に近い感覚。同時に、帰るべき実家を失ったような、迷子になったような気持ちに包まれて途方に暮れた。
まさか40代にして「ライヴハウスの閉店」にここまでショックを受けるとは思わなかった。だけど、今思うと、あれはコロナ禍で「ずっと何かを誤魔化して我慢して、どこかギリギリだった精神状態に対する最後の一撃」だったのだと思う。
そう思って、ふと気付いた。感染が拡大し始めてからずっと、私は「泣くのを我慢」しているということを。毎日、毎分、どの瞬間も。それはきっと、多くの人も同じだと思う。少しでも気を緩めると、いろんな理不尽に泣き叫んでしまいそうな、そんな発作の前兆みたいな時限爆弾を、1年近く、みんながずっと抱えている。スーパーやコンビニのレジに透明のシートがかかっているのを見た日から、マスクが手放せなくなった日から、「日常」が容易く断ち切られ、それと同時にリアルな人との関係も断ち切られた日から、ずっとずっと抱えている。そんな感情にうまく折り合いをつけられない人が過剰に攻撃的になったり、自粛警察になったりしているのかもしれない。
そんなコロナ禍の1年、ヴィジュアル系に限らず、多くのバンドが解散、活動休止を発表した。中には無観客配信などで頑張っているところもあるけれど、やっぱり生のライヴにはかなわない。私も何度か観たけれど、そのたびに、「暴れるバンギャ」含めてのライヴなのだと痛感する。メンバーこそが痛感しているだろう。
さて、多くのミュージシャンが苦悩する中、気になる調査結果が報道された。それは文化関連の30以上の団体が参加する演劇緊急支援プロジェクトの「文化芸術に携わる全ての人の現況とコロナの影響に関するアンケート」結果。このプロジェクトでは20年12月31日から21年1月7日にかけて文化芸術活動に関わる人々にアンケートを実施し、5378人から回答を得たのだが、実にその30%以上がコロナ禍で「死にたいと思ったことがある」のだという。これは異常な数字ではないだろうか。それだけでなく、調査結果からは厳しい現状が浮かび上がった。例えば、コロナ禍前から収入が半分以下に減った人は44.5%。新しい仕事の依頼がまったくないと答えた人は31.6%。
音楽業界に限ると、もう大分前から「CDが売れない時代だから、ライヴをやってナンボ」の世界だった。そのライヴが軒並み中止やキャンセルになってしまったのだ。それはそのまま「収入ゼロ」となる。