コロナ禍で変わったことはいろいろあるが、中でも大きいのは「飲み会が消えた」ことだろう。
コロナ以前は、週に一度くらいどこかであった飲み会。何も覚えてなくても楽しかった飲み会。時々嫌なこともあったけど、それでも行ってた飲み会。それがなくなって、人生、随分味気なくなった。
同時に消えたのが、酔っ払いによるトラブルだ。
20年以上にわたる酒飲み人生で、酔っ払いに絡まれたこと数知れず。それだけでなく、セクハラ被害や暴言を浴びたりといった目に多々遭ってきた。
しかし、3年ほど前から変化も感じていた。「嫌な思い」をすることが格段に減ったのだ。それは「#MeToo」運動などが浸透する中、男性たちの意識に大きな変化が訪れていたからだと思う。「セクハラ」的な言動に気をつける男性が、私の周りでは目に見えて増えたのだ。
それまでは「酒の席でのことはすべて水に流す」的な男性が、「昨日は酔っ払って変なこと言ってごめん」と謝ってくるようになった。こっちは気にしていなかったのだが、自分の発言がセクハラにあたるのでは、と気を揉んでいたという。「時代は変わったのだ」と感銘を受けつつも、中には明らかにNGなことをしながらちっとも謝らない人もいる。「覚えてないのかな」と思ったけれど、明らかにこちらを避けているところを見ると気まずいのだろう。ならばさっさと謝ればいいものを、ただただ避ける。そんな時、「この人、謝れない人なんだ」と信頼はガタ落ちする。誰にだって失敗はある。重要なのは、それを認めて謝れるかどうかだと私は思う。
そんな飲み会、コロナ禍で消えて「本当によかった」という声もある。全員強制参加の会社の飲み会。断れない上司の誘い。立場上、嫌でも笑っていなきゃいけない取引先への接待。みんなが楽しい飲み会ならいいけれど、そんなふうに気疲れするばかりの場であれば、確かにない方がいい。
「コロナのおかげでセクハラから解放された」という声もある。「結局、事件は宴会で起きてたんだよ!」という名台詞(めいぜりふ)も耳にした。ということで、今回は飲み会など人が多く集まる場でのハラスメントとルールについて、考えたい。
2021年5月8日、東京・新宿で開催された「自由と生存のメーデー2021」のデモの前、あるガイドラインが読み上げられた。それは「セイファーガイドライン」。以下のような内容だ。
1 他人の身体的、精神的、感情的な領域/境界を尊重する。
・境界を保つ。たとえば相手の明確な了承なしに身体に触らない。
・相手の明確な了承なしに私的メール・SNSを送らない。
・相手の領域に関することで、相手が拒否している発言や行動をしない。
2 身体的、性的、精神的な暴力、虐待は一切しない。
・異なる考え方を尊重して、力や暴力での解決に走らない。
・支配的な言動や攻撃的・抑圧的言動をしない。
・セクシュアル・ハラスメント(他人に不快感を抱かせる性的な言動や、場のあり方のこと)をしない。
3 自分の行動の影響に責任を持つ。他者を不安に陥れる行動をしない。
・酒類のある場では、特に他人の安全への影響や迷惑を考慮する。
4 文書や発言の言葉の使い方は性差別、職業差別、年齢差別、民族差別、「病」者差別、などを含めてあらゆる差別が無いか確認する。
5 参加者の身体的、精神的、感情的な安全を大事にして、必要な人が必要な時に支援を求めやすい場をつくることにそれぞれが努力する。
・困ったときは、助けを求める権利が誰にもある。
6 行動の中で差別・排除やハラスメントが起きていると感じたら、それを指摘し表明する。また、それを指摘しやすい場をつくるよう誰もが努力する。
さて、これらを読んでどう思っただろう。
「セイファーガイドライン」という言葉、初めて目にするかもしれないが、これは一言でいえば「みんなが安全にその集まりに参加できるためのガイドライン」だと私は理解している。
このような「セイファーガイドライン」に出会ったのは、今から15年前の06年。私が「プレカリアート運動」(プレカリアートは不安定なプロレタリアートという意味の造語。非正規雇用者などを指す。このような人々が「生きさせろ!」とデモなどをする運動)に参加した時である。その時点で、運動内でこのようなガイドラインはすでに存在し、デモをはじめ、イベントやあらゆる集まりの場で読み上げられた。それだけではない。その界隈の多くの場では、ハラスメントが起きた際のことを想定し、被害者の安全が確保される「セイファースペース」も準備されていた。会場の一角や別室などだ。また、そうした「場の安全」に責任を持つ立場の人間として、「セイファー担当」も必ず選ばれた。例えばイベントだったら、司会、受付、時間配分、記録などと同列に「セイファー担当」がいるという具合だ。
いつ、どのようなきっかけで、このようなガイドラインができたのか、詳しいことは分からない。気が付けばこの15年、「セイファーガイドライン」は私の周りには当たり前に存在するものになっていて、いちいち意識することさえなかった。が、今年のメーデーでガイドラインが読み上げられるのを聞いて、「これ、めちゃくちゃ使えるものじゃない?」とふと思ったのだ。いくら「#MeToo」などで意識が変わった人が増えたといっても、おそらくそれはほんの一部の話で、日本のあらゆる場所でハラスメントは起き続けている。特に「酒の席は無礼講」みたいな価値観の人はまだまだ多く、泣き寝入りしている人も多いはずだ。これは今だからこそ、世に広まるべきガイドラインでは?