――地上波のMXテレビで流された「ニュース女子」事件が沖縄差別煽動の最たるものでした。非暴力で座り込みなどを続ける基地反対派の人たちを、取材もせずにテロリストと決めつけて放送し、地道に運動を支援していた辛淑玉(しん・すご)さんのことも、在日コリアンであることを強調した挙句「親北朝鮮で、基地反対派に日当を払っている黒幕」と扱うデマを電波に乗せました。さすがにこれはBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会も放送人権委員会も問題があったと指摘しました。デマであったことが明白になったにもかかわらず、それでもしばらく番組は続いていた。ネットや地方局での配信も、MXテレビが番組放送をやめてからも流していました。
目取真 MXテレビはあれでも地上波ですからね。一部のタチの悪い人がネットに書き込むのとは次元が違う。テレビ局も政治家もタガが外れたように差別を公然と口にするようになった。そのような差別がどこに行きつくのか、といえば、沖縄の人は、犠牲になっても仕方がないんだという心情ですよ。それで、沖縄までは再び戦場になっても仕方がないよな、という発想が出てくる。中国が台湾に侵攻して、与那国、宮古、石垣が巻き込まれる可能性があっても「本土」にはミサイルが飛んでこないだろうと。そして沖縄は中国とつながりもあるし、あの人たちは自分たちとは違うちょっと変な人たちだから、殺されてもやむを得ないんだという気持ちが醸成されていく。
――沖縄を巡るマスコミ報道についてはどう見られていますか。
目取真 沖縄で辺野古新基地建設への賛否を問う県民投票があっても多くの日本人は関心すら持たない。メディアもほとんど取り上げないので当たり前のように工事が進んでいくんです。一方でメディアは沖縄を消費する。大きな問題が発生し基地問題が話題になると有名な方も含めてヤマトゥから多くの人がやってきます。そして集中豪雨的に報道されて忘れられる。その繰り返しです。
しかし、私が一番大事にしたいのは、マスコミの光が当たらない中で黙々と抗議をしている高齢者の人たちです。
2016年に当時の翁長雄志(おなが・たけし)知事が辺野古新基地建設の承認を取り消し、国と裁判になって工事が一時中断しました。その間を見計らって、国が高江のヘリパッド建設を一気に進めようとし、全国から500人の機動隊員を動員し、激しい抗議行動が展開されました。マスコミの取材も殺到しましたが、高江の抗議行動はそれ以前から行われていました。2014年までは朝の6時に集合し、夜間もゲート前に泊まり込んで24時間体制で行動していました。少数の市民が献身的に現場の行動を支えていましたが、その時に取材するマスコミはほとんどなかった。
2016年のことが大きく取り上げられる一方で、それまで高江の行動を地道に支えてきた人たちは目を向けられない。ブログやツイッターで発信することもなく、現場で毎日行動している中高年の人たちもいる。実際に現場を支えている皆さんの姿こそ伝えられなければいけないと思います。
高江には新聞記者やフリーのカメラマン、ライター、ドキュメンタリー映画製作者、大学教員などが大勢来ましたが、派手な場面には群がっても、日々の地道な活動には目を向けない。機動隊や米軍とぶつかる10分間よりも、ゲート前に15時間立ち続けて何も起こらない方が大変なのに、目を向けるのは絵になる場面だけ。行動の全体を理解しようとせずに、自分の作品の材料として役に立つ場面を切り取るだけ。そういう人が多くてうんざりしました。
生きて名利を求めず。
死して名を残さず。
苦しむ民とともに生き。
野に朽ち果てることを望みとす。
そういうふうに生きている人こそ、私が尊敬する人で、記録に残したい人です。高江でも辺野古でも現場を支えているのはそういう市民です。名の知られた運動家、政治家、知識人ではありません。
沖縄戦の記憶の継承
――2月に刊行された短編小説集『魂魄の道』(影書房)に収められている表題作には、沖縄戦の最中、重傷を負って内臓が飛び出している女性から、瀕死の我が子を殺してほしいと頼まれてゴボウ剣(銃剣)で刺し殺したという過去を持つ老年男性が出てきます。68年経ってもその記憶に苦しみながら、飛行するオスプレイを見上げて「何(ぬーん)も変わらんさや」と呟く。
目取真 ほとんどが、私がこれまでに実際に聞いてきた沖縄戦体験者の話を基にしています。聞かせてもらった話を書かないといけないという思いがあります。沖縄戦で何があったかを書き残さないと、事実が捻じ曲げられて、なかったことにされてしまいますから。
――目取真さんは連日、辺野古の海でカヌーを漕ぎ、ゲート前で座り込み、新基地反対運動の直接行動を続けています。作家としての読書や執筆についての時間は、どう捻出してこられたのでしょう。
目取真 活動に集中している時期は、本を読み、小説を書ける時間はわずかです。東京とか大阪に住んでいれば小説に集中しやすいでしょうが、沖縄は日常生活の中に基地問題がある。40代から50代の最も書ける時期に多くの時間を失った、という思いはありますが、結局は創作能力の問題です。
――特に内地の作家には見えないものを、この地から睥睨(へいげい)されているのではないでしょうか。
県民投票
2019年2月24日に投開票された「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」。賛成19.0%、反対71.7%、どちらでもない8.7%。
無産党
無産政党。明治末期~昭和前期の日本で、労働者や農民などの無産階級の利益のために活動した政党の総称。
鉄血勤皇隊
太平洋戦争末期の沖縄で、戦闘要員として動員された14~17歳の男子中学生による学徒隊。
「方言札」
標準語の使用を強制させるため、学校で方言を話した者に、罰として首から下げさせた木札。各地にあるが、特に沖縄で厳しく行われ、明治末から第二次大戦後まで用いられた。(『デジタル大辞泉』〈小学館〉より)
大龍柱
首里城正殿、正面階段の両脇に建てられた龍の形の彫刻柱。