目取真 南京虐殺事件、従軍慰安婦、沖縄の集団自決など、日本軍による加害の記述が、教科書から徐々に削除されていって、それを学ばない世代が40代になって、彼らが主流になって、世論を作っていく。象徴的なのは、島田叡(しまだ・あきら)知事みたいな人物が美化されたりしていることです。
――沖縄戦時の沖縄知事ですね。「命(ぬち)どぅ宝(命こそ宝)、生きぬけ!」と住民に伝えてその命を守ったと、映画『島守の塔』(五十嵐匠監督、2022年)では描かれていますが、この島田知事発言の根拠は見当たらず、むしろ男子中学生の名簿を日本軍に差し出すなどして全面協力したことで、県外からきた兵士よりも沖縄住民の犠牲が多くなったと言われていますね。
目取真 英雄にされています。このように日本人の「美談」めいたものはフィクションでも掘り起こされる。沖縄に自衛隊を配備するために日本軍の蛮行の歴史は邪魔になる。だから、今は、戦争の怖さみたいなものがどんどん消されているんです。
――関東大震災のときに朝鮮人を暴徒から保護した大川常吉・鶴見警察署長の利用のされ方にも似ていると思うのですが、日本の内務省行政官にも良い人はいたということで蛮行の責任を薄める。一方で、最近では、麻生太郎が台湾で「戦う覚悟」と発言して緊張を煽る。徐々に「米軍基地には中国から守ってもらう。だから文句を言うのはおかしい」という雰囲気が醸成されて、それが頭上で戦闘機が轟音を立てる中で切実な沖縄の基地反対運動を続けている人たちに対する冷笑やヘイトにつながっている。
目取真 冷笑主義、シニカルな風潮は、80年代以降、ポストモダンの中から広まってきましたね。イデオロギーも崩壊して、日本みたいに絶対的な宗教や哲学を持たないような社会だと、浮遊しながら上手く世の中を渡っていけば良いというような空気が蔓延するんですよ。虚無的な空気の中で、非正規雇用が拡大して若者の貧困問題が深刻化する。明日の希望を持てない世代が生まれて、一方ではネット社会で要領よく生きていく世代がいる。それにしたってシニカルな生き方だと思いますよ。
――冷笑主義は自己責任や新自由主義経済とも親和性が強いですね。
目取真 経済で言えば、米軍基地を返還させて跡地を再開発したほうが、雇用や税収が増えて発展するのは明らかなんです。それなのに、米兵に暴行されたり、オスプレイが墜落する、そんなリスクがある基地を沖縄に押し付けてきた。そして住民の反発がおさまらないと、振興予算をばら撒いて、カネ目当てだとデマを飛ばす。さらに「ニュース女子」などは、反対運動をしている人が日当をもらっていると言い募ったわけですから、下劣極まりないです。
県民投票
2019年2月24日に投開票された「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」。賛成19.0%、反対71.7%、どちらでもない8.7%。
無産党
無産政党。明治末期~昭和前期の日本で、労働者や農民などの無産階級の利益のために活動した政党の総称。
鉄血勤皇隊
太平洋戦争末期の沖縄で、戦闘要員として動員された14~17歳の男子中学生による学徒隊。
「方言札」
標準語の使用を強制させるため、学校で方言を話した者に、罰として首から下げさせた木札。各地にあるが、特に沖縄で厳しく行われ、明治末から第二次大戦後まで用いられた。(『デジタル大辞泉』〈小学館〉より)
大龍柱
首里城正殿、正面階段の両脇に建てられた龍の形の彫刻柱。