人間には様々な欲求があるが、「需要」と呼べるのは、バッグや自動車などの商品、海外旅行といったサービスなど、お金で買えるものだけ。したがって、A子の欲求はお金で買えないので、需要とはならない。
B子とC子の欲求は共に需要となるが、有効需要と言えるのはC子だけだ。有効需要は、購入できる貨幣的な裏付けがあるものに限定される。B子の欲求は単純な需要であり、買えるだけのお金がお財布に入っているC子の欲求だけが有効需要となる。
この有効需要が景気を左右すると考えたのが経済学者のケインズだ。ケインズは、有効需要の大きさが、GDP(国内総生産)など、経済活動全体を決定するとした。人々が欲しがるものがあり、しかも買うだけのお金を持っているなら、作れば必ず売れるはずだ。したがって、有効需要が増えれば、それを満たすだけの供給(生産)が自動的に行われて、GDPが増えて景気が良くなる。反対に、有効需要が不足すると売れ残りが発生、GDPが減少して経済成長率が低下、不況になるというわけだ。
今、C子がバッグを買うのを我慢したとしよう。有効需要が減少すると、バッグのメーカーは価格を下げ生産量も減少させる。メーカーの業績は悪化、給与の引き下げや従業員の解雇などのリストラにも発展しかねない。
そして、C子のようなお金の使い惜しみが国民全体に広がった場合、経済全体の有効需要が減少して景気が悪化、所得の低下や失業者の増加で売り上げ減少に拍車がかかり、さらにリストラが…という悪循環に陥り、物価も下落して行く。これが「デフレスパイラル」であり、その原因が有効需要の不足ということになる。
有効需要を維持するにはどうすればいいのか。有効需要は、個人の消費、企業の設備投資、純輸出(輸出から輸入を差し引いたもの)、そして政府支出の4部門に存在する。
消費や設備投資の有効需要を引き上げるには、減税で購買力を高めたり、金融緩和によって金利を下げてお金を借りやすくしたりする方法がある。そうすれば、お金のないB子がバッグを買えるようになるだろう。しかし、減税や金融緩和によって使えるお金が増えても、先行き不安などで個人や企業がお金を使い渋れば、有効需要は増えない。純輸出で有効需要を増やすことも考えられるが、相手国の景気次第であるため、過度な期待は禁物だ。
頼みの綱は政府支出となる。ケインズは有効需要が不足した場合、政府が公共事業などを増やすといった財政政策が有効だと主張した。C子がバッグを買わないなら、政府が代わりに買い上げるというわけだ。
政府の意思で実行できるだけに、迅速な対応も可能だ。しかし、公共事業には無駄がつきまとい、税金を使うという点でも問題が残されている。
増やしすぎると景気の過熱とインフレを招く恐れもある有効需要。これをいかにコントロールするのかは、経済政策の最重要課題なのである。