壊されたテレビを買い直すという知人の行動が、大規模になったもの、それが「復興需要」だ。復興需要は、戦争や地震や台風による被害など、国家規模で発生した損失を復旧させる際に発生する需要のこと。
台風による豪雨で堤防が決壊、橋や住宅が流出し、近くにあった工場設備も壊れたとしよう。堤防を再建するために建設会社や資材メーカーなどに巨額の工事が発注され、国や自治体の支出は大幅に増える。家を流された人が、住宅を建て直し、家財道具なども買い直すことから個人消費が増え、関連メーカーの売り上げも増加する。さらに、壊れた工場の設備を再生するために、設備投資も増えるだろう。
こうした復興需要によってGDP(国内総生産)が増加、経済成長率が上昇する。つまり景気が良くなるのだ。損失の規模が大きくなれば、復興需要も大きくなる。阪神・淡路大震災の際にも、巨額の復興需要で経済成長率が押し上げられたとされているが、この好景気を素直に喜べないのは明らかだ。復興需要の裏には、本来は必要なかった出費が行われている。液晶テレビを買い直すために定期預金を解約した知人のように、復興需要を賄うために、国や個人、企業などが貯金などの資産を取り崩して資金を捻出しているわけだ。
経済には経済成長率のような「フロー」と、預金や資産などの「ストック」の2つの側面がある。復興需要はフローを活性化させる一方で、ストックに大きな損失が生じる。フローの指標である経済成長率が上昇しても、ストックである貯金などが減少しているのだ。
さらに、復興需要が経済成長率上昇に結びつかない場合もある。復興需要を満たすだけの供給(生産)が国内で行われない場合、輸入が増えて貿易赤字が発生、景気の足を引っ張ってしまう。また、供給が足りないと物不足が生じて、インフレを引き起こすこともある。景気低迷にインフレが加わる「スタグフレーション」という最悪の組み合わせになる。
しかし、それ以上に問題なのは、必要な資金が捻出できず、復興需要が十分に生まれない場合だ。これはテレビを壊された知人が、「お金がないので買い直せない」と、テレビなしの生活を続けていくこと。復興需要が低迷している場合は、被害を受けた人や地域の復興が進まず、不自由な生活を続けていることを意味している。
25兆円とも試算される東日本大震災の損失額。2010年の日本の実質GDPは約540兆円であり、もし復興需要が一気に出ればGDPは565兆円になり、経済成長率は単純計算で4.6%の大幅な上昇となる。
しかし、巨額の復興需要の資金を、被災した人や地域だけに負担させようとすれば、復興需要は決して盛り上がらない。復興需要は復興のバロメーターだ。国全体で負担を分かち合って資金を捻出し、復興需要を高めて経済成長率のアップにつなげることが、日本国民全体に求められているのである。 “