経済も同じようなことが起こる。物価の変動によって、経済活動の見え方が変わってくるのだ。GDP(国内総生産)をはじめとして、経済データは生産物の価格を合計して算出される。したがって、物価が上昇すれば、生産活動に変化がなくてもGDPが増えて好景気に、反対に物価が下がれば、GDPが減少して不景気に見える。物価という「服」によって、経済活動の動きがゆがんで見えてしまうということになる。
そこで「名目」と「実質」という区分けが生まれた。名目は物価を調整しないそのままのデータ、物価の変動を除いたものが「実質」。物価という服を着たものが名目で、裸になった状態が実質となる。
名目と実質の違いを、実際の数字で見てみよう。2010年度の名目GDPは479兆円、一方で実質GDPは510兆円となっている。物価が低下するデフレの影響で、名目GDPが減少してしまっていることが分かる。日本経済が「着やせ」しているのだ。
インフレの場合には逆になる。物価が上昇することによって名目GDPは大きくなるが、実際の経済活動は伴っていないため、実質GDPはより小さくなる。インフレの時には、物価という服は「膨張色」となり、本来の姿より太って見えてしまうのだ。
名目と実質の区分けは、金利にもある。金利1%の1年定期預金を作ったとする。1年後に物価が3%上昇していたとすれば、1%の利息をもらっても2%の損失(利息1%-物価上昇3%)となる。この場合、1%という定期預金金利が「名目金利」であり、物価変動分を考慮したマイナス2%が“本当”の金利、つまり「実質金利」となる。反対に物価が1%下がってデフレになれば、名目金利にデフレ分も加わって実質金利は2%となるというわけだ。この他、賃金にも名目賃金と実質賃金があるなど、経済の様々な場面で、名目と実質の区別が行われている。
GDPが実質で発表されるように、一般的には実質に重きが置かれている。しかし、実質の数字は物価を後になって調整したものであり、経済の「実感」ではない。毎月の賃金(名目賃金)が1%減っても、物価が2%下がっているので、「賃金は上昇している」といわれても、「生活は苦しくなっている!」というのが率直な印象だろう。経済活動はあくまでも名目、つまり、物価という服を着て行われているのであって、服を脱いだ姿のほうが誤解を与えるという指摘も少なくないのである。
2010年度の経済成長率は名目では+1.1%だが、実質では+3.1%となる。「脱いだらすごいんです」というわけだが、景気回復の実感に乏しいことは間違いない。名目と実質の違いをしっかり認識し、だまされないようにすることが重要なのである。