経済でも同じようなことが行われることがある。「リフレーション」だ。経済を巨大な部屋と考えると、物価はその温度に例えられる。物価が上昇し過ぎて暑くなるとインフレ、下がり過ぎて氷点下になるのがデフレだ。
リフレーションはインフレーション(inflation)と「再び」という意味の“re”を組み合わせた言葉で、インフレを「再発生」させるという意味を持つ。冷え切ったデフレ経済を暖めて、インフレにしようとするわけだ。
リフレーションはどのような方法で行うのか? インフレは通貨価値の下落であることから、通貨を大量供給する金融緩和を実施し、供給過剰にすればよいことになる。通貨という「燃料」を配り続け、部屋を暖めてもらおうとするのだ。
しかし、インフレになるためには供給された通貨が使われてモノが売れ、それとともに需要が増大して、モノの価格の引き上げにつながっていく必要がある。ところが、どんなに大量に通貨が供給されても、個人や企業が使おうとせず、現金や預金の形で蓄えられてしまう場合がある。「流動性のわな」と呼ばれる状態で、これでは物価は上昇しない。インフレを発生させて、部屋を暖めるためには、通貨という燃料を供給するだけではなく、それに火をつけることが不可欠になっている。
それでは、誰がどのような方法で火をつけるのか? 個人や企業がお金を使おうとしないのなら、残された使い手は政府となる。政府が公共事業などの形で大量の財政支出を断行するのだ。中央銀行が供給した大量の通貨に、政府が自ら火をつけることで、リフレーションを実現させようというわけだ。
また、個人や企業がお金を進んで使うように、「設備投資をしたら法人税を軽減します」、「エコカーを購入した人に10万円出します」などといった、減税や補助金政策も、リフレーションを実現させる方法の一つだ。この他、為替相場を下落させ、輸入物価を引き上げることで、リフレーションにつなげることもある。
しかし、リフレーションは危険な側面を持つ。政府の動きに刺激されて、個人や企業がお金を使い始めると、大量に供給されている通貨に一気に火がつき、バブルの再来、さらには通貨価値が暴落するハイパーインフレーションに発展する危険性がある。暖めるのを通り越して、通貨という燃料が「爆発」する恐れがある。
デフレ脱却を図る安倍政権が展開しているのもリフレーションだ。日本銀行に大量の資金供給による「大胆な金融緩和」を求めると同時に、積極的な財政支出も実行、円安を放置するなどリフレーションを起こすアメの政策を総動員して、物価上昇率2%を達成しようとしている。ガスコンロまで使って部屋を暖めようとしているのと同じだが、温度が「2度」上昇したところでうまく火を止められるのかどうか? 客のいないすき焼き店で勢いよく燃えていたガスコンロの火に、安倍政権のリフレーション政策の危険性を見ることができるのである。