これは「外部経済」の一例だ。外部経済とは、ある経済活動が市場メカニズムを経ずに、第三者にプラスの影響を与えること。東京スカイツリーは、利用料を入場者などから徴収することで建設費や運営費を回収し利益を上げるが、その経済効果はこれにとどまらない。新名所の誕生で商店街の売り上げはアップ、不動産価値が上昇するなど、多くの人が恩恵を受けるが、誰も対価を支払わない。こうした経済効果は、市場メカニズムの外側にあって、誰でもタダで利用できることから外部経済と呼ばれている。
ワールドカップ優勝でなでしこジャパンの合宿地の旅館が満室になるのも、花火大会の開催でお店の売り上げがアップするのも外部経済だが、一方でマイナスの効果を与えるものも多い。
東京スカイツリーが誕生することで、周辺の道路は渋滞や違法駐車が深刻化、マナーの悪い観光客によってゴミが散らかされる恐れがある。しかし、その対応にかかるコストや迷惑料を東京スカイツリーに請求することは困難であり、地元住民や自治体の負担が増えてしまう。こうした外部経済の中でも、マイナスの効果を与えるものについては、「外部不経済」と呼んで区別されている。
外部不経済の中でも最大級のものが、温暖化などの地球環境破壊だ。本来は企業などが負担すべき二酸化炭素の排出削減の費用などが支払われずに垂れ流し状態となり、世界中の人々に影響が及んでいるのである。
外部不経済を解決するには、第三者の介入が不可欠となる。環境破壊を軽減するためには、「環境税」のような特別の税金を設定し、生産活動に応じたコストを支払わせることが有効だ。これは外部不経済を市場メカニズムの中に取り込む「内部化」であり、提唱者であるイギリスの経済学者ピグー(1877~1959)の名前をつけて「ピグー税」と呼ばれることもある。
一方、外部経済を促進するためには、政府や自治体が減税や補助金を出すことが有効だ。対価を受け取れないことから、外部経済は思うように拡大しない場合が多い。地域の活性化につながるなら、日本各地に東京スカイツリーのような新名所を造ればいいはずだが、事業主だけで巨額の建設費を捻出するのは困難なのだ。そこで、国や自治体が新名所建設の補助金や減税などの政策を打ち出せば、外部経済を拡大させることが可能となる。これらの政策は「ピグー補助金」、「ピグー減税」などと呼ばれていて、エコカー減税や家電エコポイント制度などもその一例と考えられるのである。
東京スカイツリーの外部経済効果で、マンションの評価額アップに喜んでいる知人だが、将来は住環境悪化などの外部不経済に悩まされることになるかもしれない。外部経済と外部不経済に向き合い、その内部化をどこまで実現できるかは、経済活動適正化の重要なポイントとなるのである。