「限界効用理論」にも同じことが言える。この理論の登場で、経済学には「限界革命」と呼ばれる大変革が起こるが、その中身は実に単純だ。
「ビールは飲み飽きたので、今度はおつまみを追加しよう」、「今度のボーナス、バッグはいくつも持っているからアクセサリーを買おう」といった具合に、人々は自然に消費の意思決定を行っている。こうした消費行動を、理論的に解明しようとするのが限界効用理論なのだ。
限界効用理論のポイントは、モノやサービスを追加的に消費する際、それがもたらす満足度を「限界効用」という形で数値化した点にある。居酒屋で追加注文をする際、飲み飽きているビールをもう一杯注文するより、新しいおつまみを注文したほうが、より高い満足を得られるとする。この状態を限界効用理論では、追加注文で得られるビールの限界効用を10、おつまみの限界効用を15などと数値化して比較し、より大きな効用が得られるおつまみを選択することが合理的だと結論づける。誰もが無意識のうちに行っている消費行動を、限界効用という数値を使って分析するのである。
万有引力と同様に、当たり前のことを説明しただけの限界効用理論だが、これが様々な形で発展していく。「限界効用逓減の法則」もその一つだ。この法則は、限界効用が次第に減る(逓減)傾向を持っていることを明らかにしたもの。最初の一口はとてもおいしいビールだが、飲み続けるうちにおいしさの度合いは低下していく。これは大半のモノやサービスに共通する現象で、同じ商品を売り続けていれば、次第に売れ行きが鈍り、最後には全く売れなくなる恐れがある。これを回避するには、絶え間ない商品の改良や新商品の開発が必要不可欠であることを、限界効用逓減の法則は教えてくれる。
また、「限界効用均等の法則」も生まれた。ビールとおつまみの例で言えば、当初はおつまみの限界効用が大きくても、おつまみを頼み続ければその限界効用は逓減、やがてビールと同じ水準となる。限られた予算の中で、自由な競争が展開されていれば、消費者はすべての消費対象の限界効用が同じになるように行動することになる。これによって、消費行動を数学的に分析する消費関数理論の研究が進んでいくのである。
限界効用理論は、企業経営や投資の分野などでも応用されている。企業が設備投資などの追加投資を行う際、それによって得られる利益を「限界投資効率」の形で算出し、投資するかどうかの経営判断が行われている。どの株式や債券を新たに購入するかについても、それによって得られる限界利益を算出、もっとも大きなものに投資が行われることになる。
この理論は「微分」の手法が適用できることから、経済学に高度な数学が使われるきっかけにもなった。万有引力同様、当たり前のことを見事に説明した限界効用理論は、経済学の根幹を成す概念となっているのである。