日本経済を巨大な旅客機と考えると、「国内総生産(GDP)」はその高度を示すもので、景気が良くなれば高度上昇、悪くなれば高度は下がる。「日銀短観」は、乗客である企業の経営者に「景気はどうですか」と乗り心地を聞くアンケート調査。「景気動向指数」は、機体(景気)が上を向いているのか下を向いているのかを示すものだ。
「鉱工業生産指数」は、日本経済の中核を形成している鉱工業の状況を示すものだ。旅客機で言えば、機体がどの程度活発に動いているかを示す計器と考えられる。基準年(現在は2000年)の生産量を100とし、前月と比べて上昇しているのか、低下しているかで、景気の良し悪しを判断する。
実際のデータを見てみよう。07年9月の鉱工業生産指数は110.3で、前の月に比べて1.4%低下した。日本経済という旅客機の飛行状況が、前の月に比べて少々悪くなっているということになる。調査を行う経済産業省は、「一般機械工業、輸送機械工業、情報通信機械工業などが低下」と、その理由についても発表している。これによって、日本経済のどの部門の景気がよく、どの部門の景気が悪いのかが把握できるというわけだ。
経済産業省は、「鉱工業生産指数」と同時に、「出荷指数」「在庫指数」などのデータも発表している。出荷指数が上昇すれば景気は上向き、低下すれば下向きとなる。景気が悪くなると在庫が増えることから、在庫指数が上昇すれば景気は悪化、低下すれば景気は良くなっていると判断できるのだ。
これを、同じく07年9月のデータで見てみる。出荷指数は114.4で前月比-2.0%、在庫指数は97.1で前月比+1.1%と、生産指数と合わせて、景気が少々悪化していることを示すものとなっている。
この他に、「稼働率指数」も発表される。稼働率とは、生産設備がどの程度使われているかを示すもので、景気が良くなると稼働率指数は上昇する。07年9月の稼働率指数は108.6で、前月比-1.0%。他の指数と合わせて、こちらも景気が悪化していることを示唆しているのだ。
鉱工業生産指数は、調査対象月の翌月下旬に速報値が発表され、精度を高めた確報値が翌々月の中旬に発表される。
景気の動きに敏感に反応することから注目度が高く、その数字によって株式市場や外国為替市場に大きな影響を与えることも少なくない。もちろん、政府や日銀も政策を決定する上での重要な判断材料として、その結果を入念に分析しているのである。
「鉱工業生産指数」は、日本経済という旅客機の飛行状況を示す重要な計器だ。どんな結果が出るのか、市場関係者、投資家が注目し、コックピットに座る機長である政府と、副操縦士の日銀も、その結果によって操縦桿を操作することもある、重要な経済指標なのである。