よく見る求人広告だ。一見するとよさそうだが、出来高払いの部分はゼロの可能性もある。過度な期待を持つと、「これだけ?」と後で裏切られたような気持ちにさせられることも多い。
政府の景気対策にも似たようなからくりがある。景気が悪化すると、政府は様々な景気対策を打ち出すが、即座に支出を行って景気を押し上げる効果を持つものの他に、一定の条件を満たした場合にだけ支出されるものや、企業や地方自治体を間接的にサポートするだけのものがある。景気対策にも「固定給」と「出来高払い」があるのだ。そこで、景気対策全体を「事業規模」、その中で確実に実行される部分を「真水」と呼んで区別している。
「真水」に厳密な定義はないが、一般的には、政府が予算を組んで直接的な支出を行い、実際にGDP(国内総生産)を増やすものとされている。
公共事業がその代表的なもので、GDPに換算されない土地の取得費用などを除いた、工事の材料費や人件費などが真水とされる。また、様々な補助金なども真水と考えられ、麻生太郎政権の「生活対策」(追加経済対策)に盛り込まれた定額給付金なども、ここに含まれる。
真水の景気対策を行うためには、同時に補正予算などを組み、財源を確保する必要があるが、財政難の日本では大盤振る舞いができない。高い固定給を支払えないのだ。そこで、出来高払いを増やした景気対策が組まれることになる。政府系金融機関の融資枠の拡大や、企業向けの融資に対する政府保証の拡大などがその典型だ。
「政府系金融機関の融資枠を10兆円に拡大」という政策が打ち出されても、それが即座に実行されるとは限らず、政府の支出も当面不要だ。
政府の信用保証枠の拡大も同様だ。信用保証は、融資が焦げ付いた場合に損失を肩代わりすることを政府が保証して、企業が金融機関の融資を受けやすくするものだが、これも最終的には企業に対する審査の結果に左右される。「中小企業向けの信用保証枠を30兆円に拡大」という政策は、「出来高払いの上限が30兆円」という意味であり、景気対策として30兆円が支出され、GDPを押し上げるわけではないのだ。
事業規模が大きくても真水はわずか…。その典型が、2008年8月、当時の福田康夫政権下で打ち出された「安心実現のための緊急総合対策」。事業規模は11兆5000億円だが、真水はわずかに1兆8000億円ほど。残りは中小企業への資金繰り支援などだった。
08年12月に麻生太郎首相が発表した「生活防衛のための緊急対策」も、事業規模は23兆だったが、金融機関への予防的な公的資金の投入枠の拡大など、即座に実行されない金融面での対応が13兆円、定額給付金を含む第二次補正予算に裏打ちされた真水と考えられる金額は4兆8000億円ほどに過ぎず、悪化する景気を支えるには心許ない規模だったのだ。
最近では、「財政措置」などと呼ばれることもある「真水」。その由来は定かではないが、かつて出来高払いの部分だけが強調された景気対策が「水膨れ」と批判されたことから、その中でも確実なものという意味合いで「真水」と呼ばれるようになったようだ。
厳しい財政上の中、固定給を増やせない政府は、出来高払いばかりを強調しているのが現実だ。実効性のある景気対策を求めていくためにも、見せかけの数字にだまされることなく、「真水」の額をしっかり把握することが必要なのである。