築地市場でおなじみのマグロのせりの風景だ。マグロの水揚げ量(供給)が増えたり、買い手(需要)が減ったりすると価格は低下、逆の場合には価格が上昇することになる。「せり」は需要と供給を調整し、価格を決めてゆく経済システムの原点だ。
国の借用証書である国債も、マグロのせりと同じシステムで販売され、その価格が決められている。これが「国債の入札」だ。
国債の入札の場合、国債というマグロの売り手は財務省、買い手は銀行や証券会社、生命保険会社などの金融機関で、マグロの仲買人に相当する。
財務省は買い手に対して、発行する国債の期間、金利、そして発行額の総額を提示する。2008年12月2日に行われた入札では、期間10年、利回り1.4%、総額1兆9000億円分の国債が売りに出された。
国債の発行価格(最低価格)は100円で、入札は1億円単位となる。これを受けて買い手は、例えば「100円30銭で50億円分」「100円20銭で100億円分」といった具合に、購入を希望する価格と金額を決定して応札する。財務省はこれを集計し、購入希望価格の高い順に国債を割り当て、予定した発行総額に達した段階で終了となる。購入希望者が多ければ落札価格は上昇、人気がない場合は価格が下落し、売れ残ることもある。
08年12月2日の入札では、金融機関の応札額の合計は5兆173億円、応札倍率は2.9倍となった。購入希望価格の高い順に落札されていった結果、「足切り」となる最低落札価格は100円10銭で、この価格で「売り切れ」となったわけだ。
国債の入札価格は、マグロのせりと同様に、供給量である国債の発行額と、需要である金融機関の購入意欲によって決定される。特に重要なのが発行額だ。マグロの水揚げ量が増えれば価格が下がるように、国債が大量に発行されれば供給過剰となり、平均落札価格は低下し応札倍率も低下する。そして、供給がさらに過剰になって国債の人気が下がると応札倍率は1倍を割り、国債が売れ残ってしまうこともある。これが「札割れ」と呼ばれる状態だ。
国の借用証書である国債が売れ残れば、政府の資金繰りに支障が発生する恐れが出てくる。こうした事態を回避するために、財務省は国債の金利引き上げを行う。良質なマグロであれば、水揚げ量が増えても売れ残ることはないというわけだ。
しかし、国債金利は国が借金をする際に支払う利息、これを引き上げればそれだけ財政負担が重くなり、さらに多くの国債発行を迫られることになる。こうした悪循環が続けば、国債の信用力は低下、「腐ったマグロ」となった国債を買う人はいなくなり、国家財政は破綻してしまうのだ。
急激な景気の悪化で税収が激減、景気対策のための財源確保の必要性も手伝って、国債の発行額はさらに増加し、国債金利上昇の可能性も高まる。国債金利は企業向けの融資や住宅ローン金利に連動しているだけに、その上昇は景気をさらに悪化させる恐れもある。
一部の専門家しか注目しない「国債の入札」だが、そこには日本経済の危険度を示す重要なシグナルが示されている。マグロの人気が急落し、「バナナのたたき売り」となった時、日本経済は計り知れないダメージを受けることになるのだ。