課長が部下の営業成績を調整して格差を縮める。これを国全体に広げたものが「所得再分配」だ。
国民を「営業マン」、政府を「課長」と考えよう。国民は様々な経済活動を行って所得を得るが、その額は人によって大きく違う。年間数億円を稼ぐIT企業の社長やプロスポーツ選手などがいる一方で、懸命に働いても所得が少なく、生活費にも事欠く人も少なくない。「勝ち組」と「負け組」の大きな格差が存在しているのだ。そこで、「課長」である政府が、国民の営業成績である所得の格差調整を行う。これを所得再分配という。
所得再分配は、主に税金を利用して実施される。高所得者の税率をより高くする「累進課税」を導入すれば、所得格差を小さくすることができる。「固定資産税」や「相続税」なども、お金持ちからより多くの税金を徴収することから、所得再分配の効果を持つ。集められた税金は、生活保護などの社会保障を中心に、低所得者層に「再分配」され、格差の縮小が図られる。
所得再分配は、近代国家の根幹を形作る仕組みだが、批判も少なくない。一生懸命働いて得た所得を、政府が税金の形で取り上げて、他人に再分配すれば不満が出るのは当然であり、「働かなくても同じだ…」と、勤労意欲も低下しかねない「勝ち組」にとって、所得再分配は迷惑な存在なのだ。
一方、所得が低く苦しい生活を強いられている人にとって、所得再分配はありがたい仕組みとなる。しかし、再分配の方法や対象が不適切で、必要のない人に再分配されたり、大きな無駄が生じたりすることも少なくない。したがって、税率の設定など所得再分配をどの程度まで行い、誰に再分配するかは、政府の政治姿勢の根本にかかわる問題となる。
「政府は余計な手出しをせず、国民の自由競争に任せるべきだ」として、所得再分配を否定する考え方は、「自由至上主義(リバタリアニズム)」と呼ばれ、「小さな政府」という形となって現れ、日本では小泉純一郎政権がその典型と考えられている。
一方、「もっとお金持ちから税金を取って、低所得者に回すべきだ」と、所得再分配を重視する政策は「大きな政府」を志向するもの。「子ども手当」など、民主党の政策は所得再分配を重視するものといってよい。
完全歩合制の外資系保険会社に転職した知人だが、思うように契約が取れず収入が激減。「助け合いも大切だった…」と後悔している。「勝ち組」が嫌う所得再分配だが、「負け組」になってみると、その必要性を実感する。所得再分配を、どのような方法で、どの程度実施するかは、政治の重要課題の一つなのである。