国債市場にもジャガイモの「Lサイズ」に相当するものがある。「新規発行10年物国債(新発10年物国債)」、新たに発行された償還期限が10年の国債だ。
国債には償還期限が1年以内の「短期国債」から10年以内の「長期国債」、さらには15~40年の「超長期国債」など様々な種類があり、毎日のように発行されている。しかし、償還期限や金利が異なっているだけで、政府が発行する借用書という点ではすべて同じもの。そこで国債市場では、金利の動向を把握するためにジャガイモの「Lサイズ」に相当する基準となる銘柄を選び出している。それが新発10年物国債というわけだ。
新発10年物国債は長期金利の基準にもなっている。国債は通常の商品と異なり、「価格」ではなく「金利」で取引が行われている。発行量が増えたり、買い手が減少したりすると、販売を促進させるために金利(流通利回り)は上昇していく。反対に発行量の減少や買い手が増加して人気が高まれば、より低い金利で取引されるようになる。
新発10年物国債の金利動向は、金融機関の貸出金利にも影響を与えている。国債の金利が上昇して貸出金利を上回った場合、金融機関は貸し出しをするより、国債を購入したほうが有利になる。そこで、国債金利の上昇に合わせて、貸出金利を引き上げる措置が取られることになるのだ。
企業向けの貸し出しに加えて、新発10年物国債の金利は、長期固定の住宅ローン金利の基準にもなっている。したがって、新発10年物国債の金利が上昇すると、それに連動する形で、住宅ローン金利も上昇する。ジャガイモの「Lサイズ」の値段が上がると、他のサイズのジャガイモはもちろん、ニンジンやキャベツなどの価格も連動して上昇してしまうというわけだ。
新発10年物国債の金利上昇は住宅需要のみならず、景気回復に水をさす恐れがあることから、日本銀行も神経をとがらせている。日本銀行の黒田東彦総裁は、「非常に好ましくない」と、懸念を示しているが、「変動を縮小させる努力を引き続きやってゆく」と、弱気な発言をするにとどまっている。
新発10年物国債の金利は、日本銀行の金融政策や景気の見通し、さらには株価や外国為替相場などの動きにも反応し、複雑で不安定な変動を繰り返している。日本銀行にはこれをコントロールする直接的な手段はなく、見守る以外にないというのが実情なのだ。
ジャガイモの「Lサイズ」の価格はおおむね安定していて、野菜市場全体の動きを左右するものではない。しかし、国債市場における「Lサイズ」である新発10年物国債は、日々激しく動き経済全体を揺さぶっている。企業はもちろん、個人でも、その動きをしっかり確認しておく必要があるだろう。