労働組合や農協などの協同組合では、組合員に対して緊急の融資制度を持っている場合が多い。協同組合は組合員から会費を徴収し、様々な活動を行っているが、そうした活動の一環として、お金に困った組合員がいると、集めたお金を使って臨時の融資をしてくれるのだ。
IMFの緊急融資も、同じ仕組みで実行されている。IMF(国際通貨基金)は国連の専門機関の一つで、加盟しているのは国家だ。2008年11月現在、185カ国が加盟、世界のほとんどの国を網羅している世界最大の「協同組合」がIMFなのだ。
IMFの最大の目的は、各国の通貨と為替相場の安定だ。これを実現するために、IMFは各国の通貨政策や、為替相場の急落を生む国際収支の赤字などを監視(サーベイランス)、通貨安定のための様々な施策を行っている。
IMFの財源となっているのが、加盟国から集めた出資金だ。加盟国の経済規模や貿易額に応じて払い込まれた出資金は、「割り当て」という意味のクオータ(quota)と呼ばれ、IMFが管理している。そして、お金に困った組合員が協同組合に融資を求めるように、IMFでも加盟国の要請に応じて、緊急融資を行っているのだ。
国際収支の赤字が膨らんで外国への借金返済ができなくなると、自国通貨の暴落と国家破産の瀬戸際に立たされる「通貨危機」に陥る。この場合、国際収支の赤字を埋めるのも外貨、自国通貨の暴落を止めるための外国為替市場での介入にも外貨が必要となる。
国家は通常、外貨準備の形で外貨を保有している。しかし、通貨危機に陥るような国では、元々外貨準備は少なく、場合によってはゼロということも珍しくない。このため、通貨危機に陥った国は、IMFに緊急融資を要請、当面必要な外貨を調達して国家の破産を回避しようとするのである。
1980年代のブラジルやアルゼンチンの通貨危機、94年のメキシコ通貨危機、さらには、97年のタイに始まり、東南アジアや韓国へと波及したアジア通貨危機などにおいて、IMFは大規模な緊急融資を行ってきた。しかし、その評判は必ずしもよくない。IMFは融資を実行するに際して、相手国に厳しいリストラを要求した。公務員の大幅削減や福祉・教育予算のカットなど、財政支出の大幅な削減などが断行されたことから国民の不満が爆発、中南米では「IMF暴動」と呼ばれる混乱を引き起こしたこともあった。
加盟国から集めた出資金を融資する以上、厳しい条件を付ける必要があるというのがIMF側の論理だが、結果的には混乱に拍車をかけることも少なくなかったのである。
アメリカのサブプライムローン問題をきっかけとした2008年の世界的な金融危機では、アイスランドやハンガリー、ウクライナなどで通貨危機が発生、これらの国ではIMFに緊急融資を求めた。これ以外にも外貨が不足する国が続出、IMFの資金が枯渇し、融資に応じられない恐れも強くなっている。こうしたことから、IMFの機能強化の必要が叫ばれ、豊富な外貨準備を持つ日本も、最大1000億ドルを追加出資する意向を表明している。
通貨危機に陥り、外貨不足に直面している国にとって、頼れるのはIMFの緊急融資だけだ。金融危機と通貨危機が深刻化する中、国家同士が助け合う「協同組合」であるIMFが行う緊急融資の重要性は、急速に高まっているのである。