似たようなことが、実は国家間の貿易でも起こっている。輸出は友人の家を訪ねること、輸入は友人の訪問を受けることだ。お互い自由に相手の家を訪問すること(自由貿易)が理想だが、現実は異なる。
輸出は自国の利益に直結するから、どんどん増やしたい。一方、輸入は自国の産業にダメージを与える恐れがある。安くて良質な製品が大量に輸入されると、国内の生産業者が窮地に追い込まれてしまうのだ。
そこで、高率の関税や厳しい基準(非関税障壁)を設けて、輸入を制限する場合がある。玄関で高い入場料を取ったり、「服装がそぐわない!」と難癖を付けたりして、友人を追い返そうとするのだ。
こうしたことが横行すると、国家間の不公平感が強まり、「向こうが家に入れないなら、こちらも入れない」と、報復合戦に発展、世界貿易は縮小してしまう恐れがある。
多角的貿易交渉は、こうした事態を打開するためのものだ。WTO(世界貿易機関)の下で、世界各国が自由に貿易を出来るようなルール作りを目指している。交渉のスタートが、カタールの首都、ドーハで宣言されたことから、「ドーハラウンド」と呼ばれることもある。関税の引き下げや非関税障壁の撤廃などを、世界的規模で行おうとしている。
しかし、交渉は難航を極めている。とりわけ農産物を巡る意見対立は激しい。日本やEU(欧州連合)各国には、アメリカや発展途上国などから、たくさんの「農産物君」が遊びに来たがっている。しかし、国内農家の保護を理由に高率の関税など厳しい制限が設けられていて、各国ともその緩和を頑なに拒んでいるのだ。こうした状況に、アメリカからは、日本の「自動車君」などを自由に入れてやっているのに、不公平だという声も出るなど、交渉は暗礁に乗り上げている。
相手の家には遊びに行きたいが、自分の家には来て欲しくない。こうした国家間の利害対立を解消し、自由貿易が実現される日は来るのか?多角的貿易交渉の成否が、その鍵を握っている。