2005年春、フジテレビの買収を画策したライブドアの堀江貴文前社長に、メディアは連日振り回されていた。TOB、ポイズンピルなど耳慣れない言葉が飛び交う中に、LBO(レバレッジド・バイアウト)という言葉も登場してきた。
LBOを直訳すると、「テコ(leverage)を効かせて企業を買収(buy-out)する」という意味だ。少額の資金で巨額の買収が可能となる点が「テコの作用」に似ていることから、こうした名前が付けられるようになった。
お金がなくても巨大な企業が買えるという魔法のような話は、LBOという“難しそうな”言葉の響きと相まって、複雑で高度な金融手法に思われるが、その仕組みはおなじみの「住宅ローン」と同じである。
5000万円のマンションを買う場合、5000万円を現金で持っている人はほとんどいないだろう。そこで、例えば500万円だけ頭金を支払い、残りの4500万円は住宅ローンを組むことになる。その担保は購入したマンション。もしローンの返済が不能になったら、銀行は融資をした人を追い出してマンションを売却し、融資の穴埋めをすればよい。したがって、購入者の収入がある程度安定していれば、銀行は喜んで融資に応じてくれるわけだ。
購入した住宅を担保に入れることで融資が受けられ、少額の資金で大きな買い物ができるという住宅ローン、これを応用して誕生したのがLBOだ。
LBOの場合には、買収をしようとしている企業が持っている、土地や工場の設備といった資産、そして稼ぎ出す利益などが担保となる。そして、買収後は、その企業があげる利益で少しずつローンを返済して行くことになる。融資した銀行としては、万が一返済ができなくなった場合には、買収者から企業を取り上げれば融資の穴埋めができる。こうしたことから、銀行のリスクは比較的小さく、金額が大きくても融資に応じてくれるというわけだ。
金融の歴史上最大のLBOとされているのが、1988年に企業買収ファンドのKKRが行った、タバコやお菓子を作っていたRJRナビスコの買収だ。250億ドル(およそ3兆5000億円)と気の遠くなる買収金額だが、その内の200億ドルがLBOで調達された。日本ではソフトバンクが、2000億円の「頭金」で1兆7500億円のボーダフォン日本法人を、LBOを使って買収している。
LBOの金額は、住宅ローンとは比べ物にならないほど巨額で、買収先企業の資産査定や、収益の見通しなど綿密な準備が必要だ。しかし、基本的な仕組みは住宅ローンと同じであり、驚くような内容ではないのである。
「LBOを使えば、なんでも買えちゃうんです」というホリエモンの言葉に間違いはない。その是非はともかく、「小が大を飲み込む」企業買収を可能としているのがLBOなのだ。2006年の世界でのLBO実行額は、前年比68%増の3600億ドル(約44兆円)、07年度も前年同期を4割上回るペースだという。
大きな企業を持ち上げるテコが、世界中で動き回っているのである。