人生の一大事である結婚は、恋愛結婚やお見合い結婚が一般的だ。しかし、お宮のように、両親の思惑で無理やり結婚させられる政略結婚や、強引に相手を奪う略奪婚などの様々なドラマが展開されることも少なくない。
企業経営においても、同じようなドラマが展開されている。ドラマの名前は「M&A」。MはMergers(合併)、AはAcquisitions(買収)の頭文字で、企業の合併や経営統合などの総称だ。ここで、「企業の結婚」を巡るストーリーが繰り広げられているのだ。
M&Aは企業経営の根幹にかかわる重要な戦略だ。業界内でのシェアを高めたり、生き残りを図ったりするために、合併や経営統合が行われる。独りでは生きてゆけなくなり、結婚してパートナーを得て、お互いに助け合って生きていこうとするわけだ。
新規分野に参入する場合も同様だ。自社でゼロからスタートするより、すでに実績のある企業とパートナーを組むのが効率的だ。
企業がさらなる発展を目指して行うM&A。しかし、合併や経営統合は「企業の結婚」、その道のりは平坦ではない。企業同士が相思相愛の場合、合併や経営統合はスムーズに進むが、そうはいかない場合も少なくない。相手が、「結婚」を嫌がることも多いのだ。
この場合、「買収」という強引な手段がとられることになる。株式を上場している企業の場合、TOB(株式公開買い付け)などを通じて、株式を買い集めることになる。
買収に応じるかどうかの決定権は、当該企業の経営陣や従業員にはない。株主たちの総意で決められる。合併などの重要な案件の場合、株主総会での3分の2の議決を必要とする特別決議に付託される。そして、これが議決された場合、当該企業の経営者も従業員も、合併に従わざるを得なくなる。株主という「親」の意向に、「子供」である企業は従わざるを得ないのだ。この結果、場合によっては「お宮」のように、心ならずも、大きな企業に買収されてしまう企業も出てくるのである。
M&Aには相手を紹介してくれる「結婚紹介所」もある。大手の金融機関にはM&Aを専門に扱う部署があり、合併相手を探している企業が集まるほか、場合によっては買収先を物色する企業などが相談に訪れる。金融機関の担当者はニーズにあった企業を紹介し、その買収方法や、場合によってはその資金を提供するといったサービスも行っている。M&Aがまとまると、仲介した金融機関には巨額の成功報酬が支払われることから、激しい競争が展開されることになるのだ。
堀江貴文前社長時代のライブドアは、ニッポン放送、そしてフジテレビに対して強引な買収攻勢に打って出た。資金力に物を言わせ、嫌がる相手に対して「俺の愛人になれ!」と迫ったのだ。最近ではアメリカの投資ファンドのスティール・パートナーズが、アデランスの社長を解任するなど、強引ともいえる行動に出ている。
企業の結婚であるM&A。そこには、「金色夜叉」さながらの、お金と愛憎が交錯する激しいドラマが展開されているのである。