「増資」とは、株式会社が新たに株式を発行、それを売却して資金を調達することだ。売却代金が資本金に組み入れられることから、「増資」と呼ばれている。金融機関からの借り入れと並んで、企業の資金調達の重要な手段であり、株式(equity)を使うことからエクイティファイナンスと呼ばれることもある。
増資によって得た資金は、工場の拡大や設備の更新、新規事業への進出といった事業拡大の他、経営が悪化して資金繰りが苦しい場合には、その穴埋めに使われることもある。
増資が発表されると、その企業の株価は下落することが多い。その理由を考えるために、株式会社を「分譲マンション」、株式をその「住戸」としてみる。すると、増資はマンションを改築して戸数を増やし、それを販売して資金を手にすることになる。売却によって得られた資金は、マンションの改修や駐車場の新設など、マンションの所有者全体のために使われることになるわけだ。
ここで注意しなければならないのは、増資をしても、会社そのものが直ちに大きくなるわけではなく、利益が増えるわけでもないという点だ。
株式会社では、株主が株式の所有比率に応じて、会社の資産などの所有権や、利益を配当として受け取る権利を持っている。したがって、新たに株式を発行して株主が増えれば、従来からの株主の利益や権利が目減りしてしまうのだ。これが「株式価値の希薄化」と呼ばれるもの。
分譲マンションで言えば、総戸数100戸の分譲マンションにさらに100戸を増やすために、100mの4LDKを強引に50mの2LDKにしてしまうことなのだ。一戸当たりの面積が狭くなれば、当然価格が下がるというわけである。これが、増資の発表で株価が下がる理由なのだ。
しかし、増資によって調達した資金は会社のために使われる。その資金によって業務が拡大し、業績も向上すれば株価も上昇する。株式数の20%に相当する増資が行われた場合、利益が変わらなければ配当も20%減少し、当然株価も下落する。しかし、増資の効果で利益が20%増えれば、配当も20%増えてプラスマイナスゼロ、もし利益が30%アップしたとすれば、配当も30%アップし、これによって株価が上昇することも十分にあり得るのだ。
分譲マンションで言えば、改築によって狭くなっても、得られた資金でマンションを全面改修し、設備を一新することなどによって価値が上がれば、改築後の2LDKの価格が、改築前の4LDKと同じ、あるいは上昇する可能性があるということだ。
しかし、増資=株価下落という図式がいつも成立するわけではない。会社の事業拡大など、「企業価値の向上」のための価値のある増資であれば株価は上昇するが、明確な目的のない増資は株価を下げる。重要なのは、増資によって得られた資金が有効に使われ、増えた株式以上の利益をあげられるかにかかってくるのだ。
日本航空の増資計画を詳しく見てみよう。
増資前の株式総数(発行済み株式総数)は19億8238万株で、計画では増資によって新たに7億5000万株を発行しようとした。この増資が実行されれば、総株数は37.8%も増える計算だ。増資の規模が大きかった上に、日本航空の利益が37.8%も増えるとは考えにくく、「株式の希薄化」が起こると投資家は判断した。その結果、増資分に相当する3割以上の株価下落をもたらしたのだ。
増資は株式会社の資金調達の重要な方法の一つだ。しかも、借金は返す必要があるのに対して、増資は新たに発行した株式を渡しているので、返済する必要もない。増資による資金調達は大きなメリットがあるわけだが、同時に副作用もあり、株価は敏感に反応する。増資をしたことで株価が上がる。これこそが理想的な「増資」の姿なのである。