おなじみのイソップ童話「アリとキリギリス」だ。「備えあれば憂いなし」、先々のことを考えて蓄えておけば、慌てずに済むというわけだ。
企業経営でも同じことが言える。利益が上がっても、それをすぐに使ってしまっては、いざというときに困る。そこで企業経営者は、「内部留保」という蓄えをすることになる。
企業は、稼いだ利益(純利益・当期利益)から、税金を払い、株主に対する配当と役員賞与を支払う。これらは、企業の外に流出してしまうもの。そして、最終的に残された利益が「内部留保」となり、「利益準備金」や「繰越利益剰余金」などの名目で蓄えられることになるのだ。
食料のない冬を、蓄えておいた食べ物で過ごすアリのように、企業も必要に迫られた場合に、内部留保を取り崩してこれに対応する。経営が悪化して資金繰りが苦しくなった場合はもちろん、工場拡張などの設備投資や、新規事業への参入といった場合にも、これを取り崩して対応する場合があるのだ。
内部留保がなければ、借金をすることになるが、金利の負担が発生する上に、信用力がなければ融資を受けられない場合もある。こうした状況が続けば、キリギリスのように企業は追い詰められ、倒産という「飢え死」にもなりかねない。内部留保は、企業の経営を安定させる上で、必要不可欠なものなのだ。
しかし、内部留保は大きいほどよいわけではない。内部留保を増やすためには、株主に対する配当を減らす必要がある。株主にとって、配当は多ければ多いほどよい。そこで、一部の株主からは、「内部留保もいいが、もっと配当をよこせ!」という要求が出されることがあるのだ。
また、単純にお金をため込むのではなく、設備投資などに使って生産力を強化するなど、より効率的な使い道があるはずだという指摘がされることもある。
こうした要求は、欧米の株主から出される場合が多い。日本企業の内部留保は、欧米企業に比べて大きい。安定重視、勤勉で保守的という、アリのような企業文化を持つのが日本企業なのだ。これに対して、欧米企業の内部留保は小さい。「将来のことは分からないけれど、とりあえず、手に入れた利益は、株主に配ろう」という、キリギリスのような文化を欧米企業は持っているのだ。
内部留保を手厚くする「アリ型」か、どんどん使ってしまう「キリギリス型」なのか…。どちらを選ぶかは個々の企業の判断だ。しかし、企業経営の不確実性が高まる中、来るべき「冬」に備えて内部留保を厚くする「アリ型」の企業経営が増えているのが実態のようだ。