友人の住む分譲マンションは、大規模修繕の際に積立金が不足して銀行から5000万円を借りていた。2度目の修繕が近づいて再び資金が必要になったが、帳簿上の大きな借金の存在に、銀行からの追加融資が受けられなくなっていたのだ。
しかし、このマンションの敷地の評価額は1億円と見積もられていた。そこで、敷地と借金を相殺する帳簿処理をしたという。これによって敷地の資産価値が5000万円に減少し、借金はゼロになった。住民の敷地権は半分になったが、これは帳簿上の処理にすぎない。住民にとっては、マンションを更地にして売却した場合に受け取るお金が半分になるが、日常生活の上での影響はない。
株式会社における「減資」も同じ仕組みだ。減資とは、「資」本金を「減」らすこと。資本金は株式を発行して集めたお金で、会社の元手となっている財産だ。
株式会社を株式という住戸から構成される分譲マンションと考えると、資本金は敷地に相当する。住民が住戸の大きさに応じた敷地権を持つように、株主にも株数に応じた資本金を受け取る権利がある。ただし、会社が清算される場合以外は、原則として資本金が株主に払い戻されることはない。
今、資本金1億円の株式会社が、5000万円の借金を抱えて経営難に陥り、銀行が追加融資に難色を示しているとしよう。追加融資を受けるためには、借金を減らすことが急務となる。そこで行われるのが「減資」だ。
具体的には、企業の家計簿である貸借対照表で資本金を減らす処理が行われる。減らした資本金で借入金が相殺され、貸借対照表から借金が消えるのだ。会社が清算される時に株主に払い戻される資本金は減少するが、財務状況が改善することで新たな融資を受けたり、新規の株式発行(増資)を行ったりすることができ、再び資本金を増やすことも容易になる。
減資は、資本金を取り崩す比率によって「30%減資」「50%減資」となり、「100%減資」が限界となる。資本金が1億円の企業の場合、減資で借金を帳消しにできるのは、当然ながら1億円まで。
そもそも資本金とは、会社の基本財産であり、本来は手をつけてはならないもの。これを取り崩すのは、会社の財務状況が危機に瀕(ひん)していることに他ならない。
しかし、減資は99%までなら、株価には大きな影響を与えない。「50%減資」ならその株式に割り当てられている資本金が半分になるため、株価も半分になりそうだ。しかし、敷地権が小さくなってもマンションの各住戸の大きさが変わらないように、資本金が減少しても株主の権利に直接的な影響はなく、「30%減資」でも「99%減資」でも、株価が大きく変化することはない。
ところが、「100%減資」になると状況は一変する。「99%減資」でも1%だけは株主としての権利が残されているが、「100%減資」になると株主としてのすべての権利を失う。株主が株主ではなくなってしまうわけだ。したがって、「100%減資」が実行されると、株式の価値はゼロ、紙くずになってしまう。
こうしたことから、減資を99%にとどめ、株主の権利を守ろうとする場合もある。2010年1月に会社更生法の適用を申請した日本航空(JAL)の経営再建に際しても、減資を99%にとどめ、「100%減資」を避けるかどうかで、債権者である銀行や企業再生支援機構とJAL経営陣との間で攻防が展開された。しかし、最終的には株主の責任を明確にするために「100%減資」となった。これによって株式は紙くずとなり、日本航空というマンションに住んでいた株主は、住居を失うことになった。
減資には、会社の資産が潤沢すぎるので株主に戻す「有償減資」もあるが、例外的なケースだ。会社の基本財産である資本金を取り崩す減資は、経営が苦しくなった会社が打ち出す「奥の手」なのである。