企業経営者に対しても、同じような罪と罰が存在する。「特別背任罪」だ。
企業経営者は、株主から経営のかじ取りを委ねられ、その利益のために働く。企業をバス、株主をその乗客と考えれば、経営者は運転手で、従業員というスタッフを使いながらバスを運転する。そして、株主に多くの利益を提供し、楽しませることで報酬を得ているのだ。
与えられたこの職責に故意に背き、会社に損害を与えた場合には、背任罪に問われる。「任」に「背く」ことから「背任罪」というわけだ。具体的には、返済されないことが明白であるにもかかわらず、個人的な理由で融資を実行するなど、自分、もしくは第三者の利益のために、会社に損害を与えた場合に適用される。
「背任罪」は刑法で規定されている罪で、従業員などに適用される。しかし、取締役などの企業経営者は、その責任がより重い。そこで、刑法とは別に会社法で「特別背任罪」が規定されていて、「背任罪」よりも重い処罰が科せられることになる。事故を起こした場合には、バスガイドに比べて、運転手の方が重い罪に問われるというわけだ。
企業経営者に対しては、「特別背任罪」とは別に「株主代表訴訟」が起こされる場合がある。ただし、こちらは民事上の問題で、賠償金は会社に支払われ、刑務所に送られることはない。
一方、特別背任罪は刑事事件であり、場合によっては刑務所に送られ、罰金は会社ではなく、国庫に納められる。自動車事故に置き換えれば、「特別背任罪」は道路交通法上の罪、「株主代表訴訟」は損害賠償請求に相当するのである。
経営者は会社というバスの運転手であり、株主という乗客から委任された経営という運転を、責任を持って行わなければならない。株主に内緒で、絢爛豪華な自分専用の「秘密の部屋」を会社のお金で作った社長は、「特別背任罪」に問われ、刑務所に送られてしまうことになりかねないのである。