経営陣の肩書きに、英文字の略号を加える企業が増えている。なんとなくカッコいい肩書きだが、もちろん、きちんとした意味がある。これらの英語の略称は、アメリカの企業で多く使われているもの。アメリカでは、企業の「所有」と「経営」が明確に分離されていて、所有者である株主が、実際に業務を行う経営陣(取締役)を任命、監督するという形態が徹底されている。
この関係を、「観光バス」に置き換えて考えてみよう。乗客である株主が、運転手やガイドさんなどの経営陣を任命し、観光バスを走らせる。乗客に行き先を告げられた運転手は、安全で快適な運行を心がけ、その結果として報酬を受け取る。アメリカの企業では、バスの運行スタッフである経営陣の役割分担を明確にするために、様々な肩書きを与えるようになったのだ。
株主から経営のすべての権限と責任を与えられた人が、CEO(Chief Executive Officer)、日本語では「最高経営責任者」である。しかし、CEOが自らハンドルを握ることはない。CEOは、株主の意向を踏まえて経営戦略を立て、重要な経営判断を下すのみ、自ら実務を行うことはないのだ。
実際にハンドルを握り、企業経営の実務を行うのはCOO(Chief Operating Officer)、「最高執行責任者」である。COOはCEOが定めた経営方針や戦略を具体化するために、日々の業務を「執行」する責任者なのだ。
COOの下には、営業部門や財務部門、管理部門などの様々な部署が配置される。最近ではこれらの部門の責任者についても、例えば財務部門の最高責任者にCFO(Chief Financial Officer)、IT関連の最高責任者にCIO(Chief Information Officer)、技術部門の最高責任者にCTO(Chief Technology Officer)といった肩書きを与える企業も出てきている。彼らは「観光バス」を運行するためのスタッフであり、COOの下でそれぞれの担当部門の責任者となって、安全で快適な運行を目指して働くことになるわけだ。
しかし、こうした肩書きは基本的に社内向けのもので、従来からの「会長」「社長」といった肩書きも存在している。アメリカの場合、会長(Chairman)がCEO、社長(President)がCOOの役割を果たしている場合が多いが、明確な決まりはない。
一方、日本では「会長」は名誉職で、「社長」が意思決定と実務執行を兼ねているケースが多い。この場合には「代表取締役兼CEO」となり、COOは不在となる。また、会長が経営判断と実務執行の双方を担っている場合には、「代表取締役会長兼CEO」などとなるわけである。
様々な種類と組み合わせがある企業経営者の肩書きだが、法律(会社法)上の効力があるのは、「取締役」と「代表」という肩書きだけだ。取締役は株主総会で承認され、法律上の根拠を持っている。観光バスの「運転免許証」を与えられているのが、取締役というわけだ。その中で、対外的に企業を代表する権限である「代表権」を与えられた人が、代表取締役となる。したがって、法律上は代表権を持つ「代表取締役」と、代表権を持たない「取締役」の二つの肩書きしか存在しないのである。
企業経営陣の役割分担を明確にするために導入され始めた、CEOなどの新しい肩書き。アメリカの企業で広がったその肩書きは、日本型の企業経営システムにそぐわない面もあり、まだまだ一般的とは言えない。「CEOと社長、どちらが偉いの??」といった混乱が、しばらく続きそうだ。