アニメの中では、サザエさんとフネが「今月も赤字だわ…」とため息をつくシーンが出てくるが、磯野家全体では波平とマスオさんの2人分の収入があるはず。フグ田家は、食費や住居費などを波平に支払っていないのか、波平が株か何かで大損しているのかなど、磯野家の家計簿をのぞいてみたくなる。
「連結決算」は、磯野家全体の家計簿に相当するものだ。近年、企業は多角化のために、本社の他に、株式を保有する子会社や関連会社を加えた「企業グループ」を形成するようになった。
子会社も関連会社も独立した企業だが、株式の配当金として利益を還元する一方で、業績が悪化すれば援助を受けるなど、親会社と密接な関係を持っている。波平一家という「親会社」とフグ田家という「子会社」が、磯野家という「企業グループ」の下で、助け合いながら生活しているのだ。
さらに、一部の企業では、親会社の損失を子会社に移すという「損失隠し」が行われることもあった。株式投資で大損をした波平が、マスオさんに損失を押し付けていたことになる。
波平一家の家計簿は黒字でも、フグ田家の家計簿が大赤字で磯野家全体の家計簿も赤字では、家計の実態が把握できない。こうしたことから、子会社や関連会社を合わせた、連結決算が登場してきたのだ。
欧米では早くから連結決算が主流となっていたが、日本では2000年3月期から、連結決算が原則となった。そして、本社(親会社)だけの決算は「単独決算」「単体決算」と呼んで、付随的な位置付けとなったのである。
連結決算にグループのどこまでを算入するかは、親会社が持っている株式の比率が主な基準となる。親会社が50%以上の株式を保有する場合が「子会社」となり、その全額が連結決算に算入される。子会社の利益が10億円なら、連結決算の利益も10億円増えることになる。
一方、株式の保有比率が20~50%未満の場合には「関連会社」となり、保有比率に応じた分を連結決算に算入する「持分法」という会計方法が適用される。株式保有率が30%の関連会社の場合、利益が10億円なら、3億円が連結決算に算入されることになるのだ。
一つ屋根の下で波平一家と暮らしているフグ田家は子会社に相当し、家計簿の全額が波平一家の家計簿に算入される。しかし、仮にフグ田家が磯野家の敷地に別棟を建て、ご飯だけは一緒に食べているとすれば、食費だけを波平一家の家計簿に反映させる関連会社の扱いとなる。
そして、株式保有率が20%未満の場合には、連結決算の対象外となる。時々遊びに来るだけの親戚のノリスケさん一家の家計簿は、磯野家とは無関係というわけだ。
トヨタの09年3月期の決算は、単独の売上高9兆2785億円に対して、連結の売上高は20兆5295億円と2倍以上になり、企業グループの大きさを示している。一方、最終利益は、連結では4370億円の赤字だが、単独では566億円の黒字を確保している。しかしこれは、グループ企業から受け取った配当金として巨額の3800億円を計上したためで、グループ企業はその分だけ利益を減らしている。そのため、連結決算ではこの計上分は差し引きゼロで、トヨタ単独の黒字は見せかけにすぎないことがわかる。単独決算だけを見ていると、企業の業績を大きく見誤ってしまうのだ。
企業グループの巨大化と多様化は、積極的なM&Aなどを通じて一段と加速している。磯野家に、ノリスケさんやマスオさんの会社の同僚のアナゴさん、さらにはカツオの同級生の面々までが一緒に暮らし始めたようなものなのだ。
「家計が苦しい」とため息をつくサザエさんとフネ。その原因を突き止めるには、波平一家の単独決算ではなく、磯野家全体の連結決算をチェックする必要があるのだ。