問題の解決を先生にゆだねるべきか、生徒同士で解決するべきか…。同様の選択を、経営危機に陥っている企業の処理でも迫られることがある。「法的整理」と「私的整理」だ。
経営が悪化し、巨額の借金を抱えて倒産寸前の企業があるとしよう。この企業をどう処理するのか。
法的整理は、文字通り「法律」に基づいて企業の処理を進めることで、「再生型」と「清算型」がある。
再生型は、民事再生法、あるいは会社更生法を適用し、裁判所の主導の下で企業を生まれ変わらせようとするもの。抜本的なリストラをする一方で、借金を返済可能な金額まで減額し、企業に立ち直るチャンスを与える。
一方、清算型は、再生を断念し、企業を解体して消滅させる。破産法や会社法の中の特別清算手続きなどによって、企業の保有する不動産や商品の在庫、事務機器など全ての資産を裁判所の管理下に置き、不公平のないように債権者に分配していく。
企業が破たんした場合、お金を貸している債権者が押し寄せ、我先にと資産を奪い去って、債権者の間に不公平が生じる恐れがある。こうしたことを防ぐために、企業を清算する際にも、法的整理が行われることがあるというわけだ。
法的整理は、生徒間の借金問題の解決を、裁判所という「先生」にゆだねるもの。再生型が生徒に反省を促し、立ち直りの機会を与えるもので、清算型は「退学処分」にしてしまうこと。いずれの場合にも、生徒は先生の指示に従うだけとなる。
一方、私的整理は、債務者と融資をしている金融機関などの債権者が、「私的」に直接交渉して問題の解決を目指すもので、任意整理、内整理と呼ばれることもある。裁判所という「先生」に頼らず、生徒同士で解決の道を探るのだ。
私的整理は裁判所が間に入らないことから、処理が迅速に進み、コストも小さい。また、法的整理が行われた場合、再生型であっても「民事再生法の適用を申請し、事実上倒産」などと伝えられることから、大きなイメージダウンを引き起こし、再建をさらに困難にすることもある。この点で、私的整理の場合には、「倒産」というイメージダウンにつながりにくく、当該企業にとっては有利となる。こうしたことから、債務者が私的整理を好むのは言うまでもない。
しかし、私的整理は当事者間の合意だけで進められることから、法的な強制力がない。したがって、借金の返済額に差が出たり、合意事項が守られなかったりというトラブルが発生する恐れもある。生徒同士の交渉だけに、不公平が生じたり、口約束に終わったりすることもある。
一長一短がある法的整理と私的整理。そこで、その中間に位置する新しい仕組みが2007年に登場した。「事業再生ADR」だ。
ADRはalternative dispute resolution(裁判所外紛争解決手続)の略で、裁判所に代わって、政府の承認を受けた民間の業者が借金の整理を主導しようというもの。法的整理のような強制力はないが、私的整理で生じる恐れのある不公平や不正を減らすことができる。生徒同士の問題解決に、先生ではなく「学級委員」が当たるというわけだ。
先生に言いつけるのか、生徒同士の話し合いに任せるのか、学級委員が仲裁に入るのか…。お金を返せなくなった問題児の処遇を決める「法的整理」「私的整理」、そして「事業再生ADR」の三つの処理方法の選択を巡って、当該企業と融資をしている金融機関、場合によっては政府も加わった交渉が展開されるのである。