部屋の中の荷物を外に出して、使えるスペースを増やす。「オフバランス化」も、これと同じことだ。
企業は土地や家屋などの不動産、株式や債券といった金融資産など様々な資産を保有しているが、これらは、すべてバランスシート(貸借対照表)に記載されている。オフバランス化とは、これらの資産をバランスシートから切り離す(=OFF)することを意味している。
多くの資産を持っていることは、決して悪いことではない。しかし、資産の大きさの割に利益が小さいと、「不要な資産を持っている経営効率の低い企業」という評価が下され、株価が低迷するなど様々なデメリットが生じる恐れがある。
また、借金をして不動産を購入したような場合、負債もバランスシートに記載されることになる。資産も多いが負債も多いという肥大化したバランスシートを持つ企業は、借金までしてブランド品を購入している知人の女性と同じように、厳しい評価を下されることになるのだ。
また、株式などは価格の変動が激しい。したがって、本業が順調でも、株価の下落によって損失が発生、これが業績を悪化させるという場合も出てくる。
そこで、バランスシートをスリムにするための、オフバランス化が必要となる。オフバランス化の手っ取り早い方法は、資産の売却だ。効率の悪い工場を閉鎖して土地と建物を売却したり、保有している株式を売却したりすることで、オフバランス化は容易にできる。
しかし、資産を売却するには大きな決断が求められ、思うように進まないのが現実。使わないとは分かっていても、ブランド品のバッグをなかなか処分できないのと同じだ。
こうした悩みを解消するオフバランス化の有効な手段が「証券化」。これは、不動産などの資産をSPC(特別目的会社)に移して、バランスシートから外してしまい、さらに、その資産を担保にした証券を発行、資金調達までしようというものだ。使わないバッグをトランクルームに移し、さらにそれを知人に貸し出して使用料を徴収しようというもの。バランスシートがスリムになる上に、資産の有効活用もできるという一石二鳥の方法だ。
また、当初からバランスシートに反映されない資産もある。借金の保証(債務保証)や、オプションなどの一部のデリバティブ取引は、財務会計上バランスシートに計上されない。こうしたことから、「オフバランス資産」を積極的に取得し、バランスシートをスリムに保とうという企業も少なくない。購入したブランド品を部屋に持ち込まず、すぐにトランクルームに入れてしまおうというわけだ。
多くの企業や銀行が積極的に進めてきたオフバランス化だが、問題も多い。オフバランス化されれば、資産の状況が決算に反映されず、経営実態が隠されかねない。
それが現実になったのが、アメリカの巨大エネルギー企業だったエンロンの、2001年の破たんだ。大量の不良資産を抱えていたエンロンだが、巧みなオフバランス化でその実態が隠され、破たん直前まで超優良企業とされていた。世界経済を大混乱に陥れたサブプライムローン問題も、住宅ローンの証券化というオフバランス化の弊害がもたらしたものだった。
知人の女性は、トランクルームを借りたことで、浪費癖が一層深刻になった。オフバランス化は便利な手法だが、使い方によっては企業経営をゆがめる恐れがあることを忘れてはならない。