子供たちが遊びの仲間を集めるお馴染みのかけ声だ。株式公開買い付け(TOB)も、実はこれと同じことをしている。
株式を購入する場合、通常は証券会社を経由して株式市場に注文を出し、売却に応じてくれる株式保有者を探す。株式の保有者一人ひとりに「この値段で売ってくれませんか?」と、個別交渉するわけだ。
これに対して、TOBは、「○○株式会社の株式を、××円で、△△株まで買います!」と、株式市場で大々的に募集をかけることに他ならない。友達一人ひとりに「鬼ごっこしようよ」と誘うより、「鬼ごっこするもの、この指とまれ!」とやったほうが、手っ取り早いというわけだ。
TOBは、take-over(買収)という英語の意味からも分かるように、企業を買収する際にしばしば用いられてきた。企業を買収するには、数多くの株式保有者から、短期間に大量の株式を買い集める必要があり、TOBは極めて有効な手段なのだ。
一方、買収を仕掛けられる企業側も、こっそりと株式を買い集められるより、TOBを宣言してもらったほうが、対抗策を立てやすい。ライブドアの堀江貴文前社長が、ニッポン放送株をひそかに買い集めて物議をかもしたこともあり、現在は発行されている株式の3分の1以上を買う場合には、必ずTOBを行うことなどを定めている。企業買収は、原則としてTOB以外では行えないようになっているのだ。
通常、TOBが宣言されると、株価は急上昇する。「この指とまれ!」と多くの株式を集めるためには、「この指」が魅力的なこと、つまり株式の保有者が喜んで株式を売ってくれるような買い取り価格を示す必要がある。このため、TOB価格は、現在の株価よりも高く設定されることになる。従って、TOBが実施された場合はもちろん、そのうわさが流れるだけでも株価が上昇することになるのだ。
また、さらに株価が上昇する場合がある。「TOB合戦」だ。買収を仕掛ける企業などが複数ある場合や、買収をかけられた企業が、防衛のためにTOBをかけて自社株式を買い戻す場合など、複数の人が「この指とまれ!」と叫び合うのが「TOB合戦」。こうなると、「他の指」ではなく、「この指」にとまってもらうためには、より高いTOB価格を設定せざるを得ない。この結果、株価がどんどん上昇をしていくことになるのだ。
外資系企業による日本企業買収を容易にする「三角合併」が解禁される中、TOBがさらに活発に行われることは確実だ。「株式売るもの、この指とまれ!」というかけ声が、株式市場で日常的に聞かれることになるだろう。