「管財人」も保護観察官と同じような役割を担っている。管財人は経営が破綻した企業に対して、事実上の経営者として裁判所が送り込む人のこと。「財産」を「管理」するという名前の通り、管財人はまず、経営破綻した企業の財産保全を図る。管財人には裁判所から強い権限が与えられていて、預金の支払いや財産の処分などは、すべてその承認が必要となる。企業が破綻すると、お金を貸していた人(債権者)が押しかけ、我先にと金目のものを持ち去ろうとする。これを放置すれば、債権者間で不公平が生じるのみならず、企業の再建も難しくなってしまう。こうしたことから管財人は、企業の財産保全を真っ先に行うことになる。この役割に特化した管財人を「保全管財人」と呼ぶ。
財産の保全をした上で、管財人は企業の再建に取り組む。「更生計画」を立案すると同時に新しい経営陣も選任、経営を監視しながら再建を推し進めていく。保護観察官が罪を犯した人を監視しながら更生を後押しするように、管財人も破綻企業を立ち直らせようとするのである。この場合の管財人を「更生管財人」と呼んでいる。保全管財人がそのまま再建を担う場合と、別の管財人が任命される場合とがある。
管財人の仕事が終わるのは、再建が達成された時だ。更生計画が順調に進み、目標としていた利益や借金返済が達成されると、裁判所は更生計画の終了を宣言する。これに伴って管財人はその職務を解かれ、企業は管財人の承諾なしに、自分自身ですべてを決定することができるようになる。保護観察期間が終わり、保護観察官の監視から解放され、晴れて「自由の身」になるというわけだ。
しかし、更生計画が達成されるとは限らない。もし、計画が実現できないと企業は「清算」、つまり消滅することになる。管財人は企業のすべての財産を処分して現金化、不公平が生じないように債権者に支払いを行う。この仕事を行うのが「破産管財人」であり、更生できなかった企業に対して、いわば「死刑」を執行するのである。
2010年1月に会社更生法の適用を申請し、経営破綻した日本航空(JAL)の場合で見てみよう。裁判所は即座に管財人を派遣、日本航空はその管理下に入る。管財人は更生計画を立案すると同時に、京セラの稲盛和夫名誉会長を会長に選任、協力して再建を進めて行く。リストラに反発する組合との厳しい交渉を経ながら再建は進められ、11年3月、日本航空は異例の速さで更生計画を達成、裁判所は会社更生手続きの終結を宣言する。「日本航空は裁判所及び管財人の監督下から離れ、通常の株式会社として企業経営を行うことが可能となりました」というコメントを出したのは国土交通大臣。国を挙げて取り組んだ日本航空の再建が終わったという安堵感が出ている。
破綻した企業に乗り込む管財人。企業が再建されるかどうかは、その手腕にかかっているのである。