株式にも同じような「ワケあり物件」がある。「種類株式」だ。通常の株式(普通株式)に与えられている「配当を受け取る権利」や「残余財産(企業が解散した際に生じる財産)を受け取る権利」、株主総会での「議決権」などに、特別な条件や制限が付けられている株式だ。
種類株式の代表的なものが「優先株式」だ。配当や残余財産を、普通株式よりも優先して受け取れる特別の権利が与えられる一方で、株主総会での議決権が付与されていない。普通株式の場合、株主には株数に応じた議決権が与えられるため、一部の投資家に株式が買い占められると、経営陣が株主総会で解任されて会社が乗っ取られる恐れが出てくる。しかし、議決権のない優先株式ならその心配がないため、買収の標的になっている企業などが発行、議決権に興味のない一般投資家にとっても、より高い配当が得られる魅力的な投資対象となる。分譲マンションで考えれば、標準以上の設備が付けられている一方で、住民総会に参加できないという「ワケあり物件」だが、「その方がいい」と考える人は少なくないだろう。
種類株式にはこの他、配当や残余財産の配分が制限される「劣後株式」、配当は優先させるが、残余財産の配分は後回しといった「混合株式」などもある。また、買収などの重要な議案に対して「拒否権」が与えられた拒否権付き株式(「黄金株式」とも呼ばれる)、株式売却の際に会社の承認が必要な「譲渡制限株式」など、買収防衛策の一環として発行されるものも少なくない。
しかし、種類株式は勝手に発行できるわけではない。種類株式は、他の株主との間に不公平を生む可能性があることから、発行に際しては株主総会での「特別決議」が必要となる。経営者が株主の利益を無視し、自分に有利になるような種類株式を発行することは許されないのだ。
定期借地権付きのマンションを好む人と敬遠する人がいるように、種類株式についても、積極的に購入する投資家もいれば、抵抗感を持つ投資家もいるため、同じ企業であっても株価が異なる。優先株式を発行している伊藤園の場合、優先株式は、普通株式より株価が安くなっている。配当が普通株式よりも25%高く設定されているにもかかわらず価格が安いのは、議決権のない優先株式のほうが売買しにくいのでは?という投資家の思惑が作用しているためのようだ。売りにくいマンションは敬遠されているわけだが、永住(長期保有)するなら、安い上に住み心地(配当)がよいマンションを買うという選択肢があってもよいだろう。
種類株式は、企業の資金調達方法を広げたり、買収防衛策になったりすると同時に、投資家の選択の余地を広げる「ワケあり物件」なのである。