同じような宣言を株式会社も行なっている。「業績予想」だ。株式会社は1年間の経営成績である決算の発表に合わせて、翌年度の「売上高」、「営業利益」、「税引き前当期純利益」などについて具体的な予想値を公表している。これが業績予想で、中畑監督と同じように、1年間の戦いを総括すると同時に、翌シーズンの勝算も発表しているのだ。
企業の業績予想は「努力目標」ではなく、「公約」に近い重要な経営指標だ。投資家は決算のみならず、業績予想も加味して投資するかどうかを決定している。好調な決算が発表されても、翌年度の業績予想が低調な場合には、先行き不安が広がって、好決算でも株価が下落することがあるのだ。
企業経営において業績予想は極めて重要であり、自社の生産性や収益力、技術力などを客観的に評価した上で、景気の動向や外国為替相場の見通しなども加えて綿密にはじき出されている。「新商品を6月に投入するので売上げは3割増」とか、「人員削減で5億円のコストカット」などと、業績予想の根拠も必要で、「頑張って優勝します」という意気込みだけでは許されないのだ。
しかし、いかに綿密な業績予想を立てても、その通りに経営が進むとは限らない。この場合に行われるのが「業績予想の修正」だ。東京証券取引所に上場されている企業の場合、業績予想から、売上高は上下10%以上、営業利益や最終利益などについては、上下30%以上の差異が生じる見込みになった場合に、即座に業績予想の修正を発表することが義務付けられている。シーズン開幕時には「優勝する!」と宣言したものの、主力選手にケガ人続出といった予想外の事態が発生して、優勝が絶望的になったら、すぐに「3位以内を目指す」などと下方修正する必要があるわけだ。
しかし、業績予想の修正が相次ぐことになれば、企業の信頼性は揺らいでしまう。その一例がソニーで、15年3月期の業績見通しを「営業利益1400億円」などとしていたが、9月になって「400億円の赤字」になると大幅な下方修正を行なった。ソニーは前の年度でも、「当期利益300億円」という業績予想を、「1100億円の赤字」へと大幅に下方修正して投資家を失望させている。「今年こそ優勝!」と宣言してシーズンに入ったものの連戦連敗、すぐに「優勝は無理です」とギブアップするようなチームの人気がなくなるのは必然だろう。
明確な戦略の元に業績予想を作成し、その通りの成果をあげられるのか? 企業は、業績予想の達成を目指して、日々激しい戦いを繰り広げているのである。