乱暴な運転手を注意するのは乗客自身の安全確保の点からも重要だが、文句をつける勇気を持てない場合も多い。しかし、株式投資においては、経営者が乱暴な経営をしたら、直ちにクレームをつけようという動きが広がっている。「スチュワードシップ・コード」の採用だ。
株式会社では、株主が選任した経営者(取締役)が、株主に代わって経営の実務を担っている。株式会社をバスと考えると、株主は乗客、経営者は雇われた運転手にあたる。「スチュワードシップ」とは「管理者の心がけ」という意味だが、乗客である株主が運転手である経営者をチェックし、「危ない運転をしたら即座に注意します」という「行動規範」(コード)がスチュワードシップ・コードなのだ。
スチュワードシップ・コードの目的は、投資先企業の企業価値を向上させ、株主の利益を最大化させること。これを実現するために、投資先企業の経営を監視し、他の投資家と共同歩調を取りながら、議決権を行使していくことになる。
スチュワードシップ・コードを取り入れるのは、株主の中でも巨額の株式投資をしている機関投資家だ。機関投資家は、経営者を選任したり、経営方針を決めたりできる議決権を大量に保有している。機関投資家がスチュワードシップ・コードを取り入れるということは、経営者を厳しくチェックするという方針表明であり、「危険な運転をしたら解雇するぞ!」と運転手をけん制する意味合いがあるわけだ。
スチュワードシップ・コードは機関投資家という乗客の行動規範だが、運転手、つまり経営者はコーポレートガバナンスに基づいて経営を進めることになる。コーポレートガバナンスとは、企業経営者が自ら行動を正し、事故を防いで株主という乗客の安全を確保しようとすること。機関投資家はスチュワードシップ・コードで経営者を監視し、経営者はコーポレートガバナンスによって適正な経営を心がける。この二つが、企業経営を円滑に進め、事故を防ぐ両輪となるのだ。
日本でも、金融庁が2014年2月に「日本版スチュワードシップ・コード」を策定、これを採用する機関投資家が増えている。15年、経営権を巡って内紛が起こった大塚家具では、スチュワードシップ・コードに基づいて行動した機関投資家が問題を収束させたとされている。大塚家具というバスのハンドルを取り合う父親と娘を見た機関投資家が、「このままでは事故になるぞ!」と、議決権を行使して父親をバスから降ろした。経営陣の失態でコーポレートガバナンスが失われたが、機関投資家がスチュワードシップ・コードに基づいて断固とした対応を取ったというわけだ。
「運転手に問題があったら、迷わず文句を言いましょう!」。スチュワードシップ・コードに基づいた乗客が増えることで、株式会社というバスはより安全で快適な運行が可能になるのである。