企業でもこうした失敗は起こる。生産設備を増強したり、新規事業に乗り出すために会社を買収したりといった投資をしたものの、思惑が外れて期待した利益が得られないことがある。こうした場合に行なわれるのが「減損処理」だ。
減損処理は減損会計ともいい、「稼ぐ力」が低下した資産の評価額を減らし、その分を損失として計上すること。ある企業が100億円で工場を新設したとしよう。計画では毎年10億円の利益を上げるはずだったが、販売価格の低下などで1億円しか稼げなくなった。この場合、工場の価値も10分の1になったと考えて、帳簿上の資産価値を10億円に減らすと同時に、失われた90億円を損失として決算に計上する。失敗の金額を算出するのが減損処理であり、10キロ痩せるために10万円のトレーニングマシンを購入したものの、実際には1キロしか痩せなかったため、その価値を1万円に引き下げるのと同じこと。
2016年1月に住友商事が発表した、ニッケル事業での減損処理を見てみよう。住友商事は07年、アフリカのマダガスカル共和国で、約24億ドル(約2640億円)を投じてニッケル鉱山の開発事業に乗り出した。しかし、操業開始が大幅に遅れた上に、中国経済の減速などでニッケル価格が当初の半分にまで暴落し、収益目標の達成は不可能になる。住友商事は現状の収益力から、事業の価値を17億ドル(約1870億円)とし、差額の7億ドル(約770億円)を減損処理し、損失として16年3月期の連結決算に反映させることにした。高いお金を出して買ったトレーニングマシンに十分な効果がなかったことを認めて、減損処理によって損失額を明らかにしたわけだ。
減損処理は失敗を認めることになるため、経営者としては極力回避したいのが本音。購入した設備が壊れてしまったり、買収した企業が倒産してしまったりした場合には、自動的に投資全額を損失として計上せざるを得ない。しかし、減損処理は継続中の事業に対して行なわれることから、「状況が好転する可能性がある」などと言い訳をして、先送りされることも少なくない。現段階では1キロしか体重が減っていなくとも、トレーニングマシンが壊れたわけではないので、「もう少し様子を見たい……」という気持ちに近い。
住友商事は15年3月期の決算時にも、アメリカでのシェールガス事業などで3000億円を超える減損処理を実施していたことから、「またか!」という厳しい声が株主から上がった。しかし、ビジネスを展開する以上、必ず失敗は起こるもの。的確な減損処理をすることは、経営の健全性を維持する上で望ましいことだ。減損処理はアメリカでは早くから導入されていたが、日本でも06年度3月期決算から、全ての上場企業に対して義務付けられている。
「高いトレーニングマシンを買ってしまいましたが効果が出ませんでした。損失は9万円です」と、失敗を素直に認めて減損処理を実施した上で、経営立て直しに取り組む確固たる姿勢が経営者に求められている。