友人は数人の仲間と競走馬を共同所有している。子馬の段階で購入し、厩舎に預けて育ててもらい、レースに出して賞金を山分けする。最近購入した馬がなかなか強く、投資した額を大きく上回る賞金を稼ぎ出しているというのだ。
「子馬の段階で能力を見極め、強い馬に育て上げるのは容易ではないけれど、成功すれば莫大な利益が転がり込む。ハイリスク・ハイリターンでなかなか楽しいよ」と、友人は語る。
ベンチャーキャピタルの仕事も、これとよく似ている。創業間もないベンチャー企業に投資し、大きく成長させることで利益をあげる。ベンチャー企業は大きな可能性を秘めた「子馬」で、それに投資して「名馬」にするのがベンチャーキャピタルなのだ。
どんなに優れた技術やノウハウを持っていても、そのビジネスを軌道に乗せるためには資金が必要となる。ところが、創業間もないベンチャー企業はほとんどが赤字で、将来性も分からず、担保になるような資産もないため、銀行もなかなか融資をしてくれない。資金が足りないことから、大企業になる可能性を秘めたベンチャー企業の将来が奪われてしまうこともあるのだ。
ここで登場するのがベンチャーキャピタルだ。ベンチャーキャピタルは、文字通りベンチャー企業に投資する金融機関の一形態で、銀行や証券会社、商社などが関連会社として設立しているほか、独立系のベンチャーキャピタル、さらには政府系として、中小企業基盤整備機構という独立行政法人も存在する。
ベンチャーキャピタルは、自らの資金を、将来有望だと見込んだベンチャー企業に投資する。投資する際には、お金を融資するのではなく、その会社の株式を購入するという形式がとられる。あるベンチャー企業に1億円を投資する場合、1株5万円のその会社の株式を2000株購入するといった具合だ。
投資をした後、ベンチャーキャピタルは、今度は株主として様々なアドバイスを行い、経営が軌道に乗るように力を注ぐ。半人前の企業が独り立ちできるように、一生懸命育てるというわけだ。そして、投資した企業のビジネスが花開くと、株式市場への上場が実現する。その際、その企業の株式は市場で高く評価され、1株5万円の株式に一気に50万円といった高い値段が付くことも珍しくない。すると、1株5万円で2000株、1億円を投資したベンチャーキャピタルは、投資した額の10倍の10億円(50万円×2000株)を手にする。
しかし、投資をしたベンチャー企業が、期待通りの成長をするとは限らない。株式上場どころか、経営に失敗して倒産、投資した株式が紙くずになってしまう可能性も十分にある。実際、株式上場にたどり着くベンチャー企業はごく少数。ベンチャーキャピタルの投資は、ハイリスク・ハイリターンのビジネスなのである。
素質を持つ子馬を探し出し、それを一生懸命育てて名馬にする。これこそが、ベンチャーキャピタルのだいご味だ。そして、その存在があることで、新たな企業が育ち、経済全体の活性化が可能になっているのである。