「個人投資家」は、その名の通り、株式や債券、外国為替などの取引をしている投資家の中で、自己資金の範囲で行っている個人を指す。
投資家には大きく分けて2つある。「個人投資家」と「機関投資家」だ。機関投資家とは、生命保険や銀行、証券会社などの金融機関、ヘッジファンドなどが挙げられる。機関投資家は企業や個人からお金を預かり、これをまとめて投資している。したがって、機関投資家の投資額は大きく、プロとして高度な金融ノウハウを駆使して投資を行う。多くの乗客(お金)をまとめて運ぶ(投資する)旅客機や鉄道のような巨大輸送機関が、機関投資家なのだ。
一方、個人投資家は投資額も相対的に小さく、投資の対象も限定的となる。個人投資家は自家用車、あるいは自転車のようなもので、個人の意思で自由に動き回るものの、一つ一つの力は小さい。したがって、株価や為替相場などを動かすのは機関投資家であり、個人投資家は、機関投資家の動きを追従する場合が大半だ。
しかし、個人投資家が、特定の投資対象に集中した場合、機関投資家に匹敵するような力を持つ。一人の個人投資家がある株式に100万円投資しても株価は動かないが、1万人集まって100億円の投資額となれば、株価は大きく値上がりするだろう。また、個人投資家はプロではないことから、想定外の動きをすることもあり、市場を混乱させることも少なくない。
その一例が外国為替市場に登場した「ミセス・ワタナベ」だ。2010年、円高・ドル安が加速する中で、昼休みの時間になると「ドル買い・円売り」の注文が増えて円安に反転するという動きが頻発した。
「なぜ、ここでドルを買うのか?」予想外の動きにプロのトレーダーたちは首をかしげたが、その正体は個人投資家。サラリーマンや主婦などが、昼休み時間を利用して、売っていたドルを買い戻していたという。仕事中や家事の最中には取引しにくいことから、昼休みに集中したというわけ。無視できなくなった個人投資家の動きに、プロのトレーダーたちは日本人に多い「ワタナベ」という姓と、主婦が多いことから、「ミセス・ワタナベ」とあだ名を付け、その動向を注視するようになったのだ。
「ミセス・ワタナベ」に、より大きな力を与えたのが、外国為替証拠金取引(FX)だ。少額の金額で大きな取引を可能とするレバレッジ(てこ)効果を持つデリバティブ取引の一種で、株式取引などでも様々なものが登場している。これが個人投資家の投資能力を高めていたのだった。
子供の小さな力でも、それが結集されれば旅客機だって動かせる。しかも、デリバティブという「てこ」を使うことで、個人投資家でも驚異的なパワーを生み出すことができるようになった。「ミセス・ワタナベ」に象徴されるように、個人投資家が、巨大な旅客機である機関投資家を驚かせる場面が、これからも起こることになりそうだ。