この「点棒」と同じと考えられるのが「ビットコイン」だ。ビットコインは通貨ではないが、通貨と同様の機能を持つ仮想通貨の一つ。航空会社の「マイル」や、家電量販店の「ポイント」など、多種多様な仮想通貨があるなかで、全世界規模の広がりを持つのがビットコインなのだ。
ビットコインは2008年、サトシ・ナカモトと名乗る人物がその原理を発表したことに始まる。ビットコインはネット上の通貨、コインやお札などの形のあるものではなく、流通量を管理し、信用力を維持する中央銀行のような組織も存在しない。ナカモトは自由で迅速な取引を可能にすると同時に、高度な暗号技術を駆使することで、複製による「偽札」を作りにくくした「ネット上の点棒」を考案、これをネットユーザーが利用し始めたのだ。
送金手数料がほとんどかからない上に、世界共通で両替も不要などのメリットを持つビットコインの普及を拡大させたのが「交換所」の誕生だった。「交換所」はビットコインを現実の通貨に交換するRMT(Real Money Trade リアルマネー・トレード)というサービスを提供している。マージャンの点棒を管理し、現実の通貨で支払いを行う「幹事」に相当するのが「交換所」であり、これを通じて多くの人々が「ネット上の点棒」を購入、「賭けマージャン」に参加し始めた。
「交換所」が広めたビットコインは、流通量が限られていることもあってその希少性から投機の対象となり、現実の通貨との交換比率は急上昇する。ビットコインが世界で初めて支払いに使われたのは10年、商品は2枚のピザで代金は1万ビットコインだったという。ドル換算で1セントにも満たなかったその価値は、投機マネーが流入したことで、13年11月末にドルとの交換比率は1200ドルを突破。マージャンの点棒のレートでいえば、「点0.01ドル」以下だった交換比率が「点1200ドル」となった結果、1万ビットコインの価値はピザ2枚分から1200万ドル(約12億円)に跳ね上がった。
しかし、流通範囲が拡大し、価値が上昇していくのにつれて、ビットコインに対する不安も広がり始めた。点棒が仮想通貨になり得るのは、マージャン仲間全員の信用を得ているからである。「マイル」が航空会社と利用者間のみで使われているように、仮想通貨は元来、限定された範囲で流通するもので、流通範囲が広がり過ぎると信頼の共有が困難になる。「ネット上の点棒」であるビットコインの急拡大は、「ただの棒じゃないの?」という不信感を生じさせたのだ。
状況をさらに悪化させたのが、主要な交換所の一つ「マウントゴックス」の破綻だった。「ビットコイン無くなっちゃいました」という代表者の緊張感のない会見を受けたビットコインの交換比率は、500ドル台まで下落するのである。
「破綻すると思っていた」(麻生太郎財務大臣)などと、金融当局者たちはビットコイン問題に冷淡だ。しかし、従来の通貨にはない利便性があったからこそビットコインは普及したのであり、激しいインフレで通貨価値が低下している国では、代替通貨として重要な役割を果たしている。
「マウントゴックス」の破綻に揺れるビットコインだが、他の交換所は健在で、取引も継続されている。果たして本当に未来の通貨になり得るのか? 「ネット上の点棒」であるビットコインの将来は見えてこない。