これからのフライトでは、彼らに命を預けることになるだけに、「しっかりお願いしますよ」という気持ちになる。
日本銀行総裁(日銀総裁)の職務を旅客機に置き換えるなら、副操縦士となるだろう。日本経済は1億2000万人が乗る巨大な旅客機で、コックピットには「機長」である総理大臣と、「副操縦士」である日銀総裁が座り、旅客機を安定した経済成長に導こうとしている。
総理大臣は、予算や税金、公共事業などの「財政政策」を担当する。一方、日銀総裁は、燃料であるマネーをコントロールし、機内温度である物価を安定させるなどの「金融政策」を担当する。
「機長」と「副操縦士」の手腕が、日本経済という旅客機の飛行、つまり景気を大きく左右するというわけだ。
旅客機の場合、機長と副操縦士は、協力し合って旅客機を操縦するパートナーだ。ところが、総理大臣と日銀総裁の間には、大きな壁が作られ、相手の行動については介入しないという、完全に独立した行動をすることが原則となっている。
その理由は、金融政策が、政府の都合でゆがめられる恐れがあるためだ。政府の財政が悪化して、大きな赤字が発生した場合、中央銀行にどんどんお札を発行させて、これを穴埋めすることも不可能ではない。しかし、安易にお札を発行すると、その価値が下がってインフレを引き起こす恐れがあり、これが国民を苦しめ、経済のバランスを崩すことにもなりかねない。
このため、機長が勝手な介入をしないように、副操縦士である中央銀行総裁との役割分担を明確にし、その独立性を高めているのである。
「財政と金融の分離」と呼ばれるこうした考え方は世界共通で、アメリカやヨーロッパでは特に徹底されている。ところが日本の場合、その独立性は十分とは言えない。
日銀総裁を任命するのは内閣で、日銀の生え抜きと、財務省(旧大蔵省)のOBが交互に任命される「たすきがけ人事」が行われてきた。財務省は言うまでもなく、政府の組織。したがって、機長とは独立しているはずの副操縦士に、機長の意向を反映した人物が、定期的に登用されてきたのだった。
こうした状況を改善するために、2002年に日本銀行法(日銀法)が改正された。日銀総裁の任命は引き続き内閣が行うが、新たに国会の承認が必要になった。国民の代表である国会の承認を受けることによって、内閣に都合の良い人選を行えないようにしたのだ。また、改正前には存在していた内閣による罷免権もなくし、禁固刑を受けるなどの特殊な場合を除いて、解任もできなくなった。
国会の承認が必要になったことで、日銀総裁の人事が、政党間の争いの材料になるケースも生じている。しかし、従来に比べれば日銀総裁の独立性が高まったことは事実なのである。
日本経済という旅客機を、景気拡大という上昇飛行を続けさせる上で、副操縦士である日銀総裁の役割は大きい。旅客機に乗る国民が、安心して操縦を任せられる経験豊かな人物を任命し、その立場を守ることは、日本経済にとって極めて重要なのである。